水の妖精 3

風が通る水辺の町に 愛した男がいた
まだ明けぬ空 水鳥が翼休めるように
眠る まどろむ その優しいゆりかご
仄かに生まれる感情 愛しき劣情に
舞い上がる感情 背徳の愛情
見つめる先に 水平線の彼方に
太陽が昇るまで そばにいてほしい


冥府の鍵 失われた門
海原渡る風 その声を届けて
生まれいずる世界に


声を届けて。


シレナは小さな声で口ずさんでいた。




「いい歌だ。誰に教わったんだい?」
「えっと…お母さん」
心地よい調べは、そのまま子守唄になり
やがて睡魔が襲って来た。
このまま眠ってしまう事が、こんなに幸福感を
与えてくれるなんて…
ヴェルスパーは大きな欠伸をして、うつろな目を
閉じる。
望郷に挑む、果てしない夢の世界へと埋没しそうな心が
まるで、船に揺られ蜃気楼の彼方へと誘うようだ。


やがて意識が曖昧になり、冥府の門が開かれようとする。
その直後に、心の片隅に違和感を感じた。
待てよ?これはセイレーンの歌だ。
このまま意識が無くなってしまえば、オレはそれまでだ。


つまり、死んでしまうって訳だ。


「だぁぁぁぁぁー!」
すでに眠り付こうとした身体を、渾身の力で奮い立たせ
四本の足で立ち上がった。
しかし聞くまいとしても、耳に入ってくるその声に
抗う術は無い。
「待ってくれ!その歌を止めてくれっ!」
半分眠り落ちている意識と対抗しながらの抗議だった。


「どうしたの?ネコさん?」
歌を止め、ヴェルスパーへ顔を向けたシレナは不思議に
思った。
「この歌はね、困った時に歌えって、お母さんが…」


困った時に使えって…それって、もしかしたら緊急信号か
或いは、仲間を呼び寄せるサインじゃないのか?!
もしここに、多くのセイレーンが来たら、オレひとりでは
どうにも対処できないぞ。
何か…対抗手段は無いのか?と周辺を探すが、何も出ては
こない。


そうだっ!スクルドだ!アイツは水の法術が使える!


この時ばかりは、女神さまっの登場を希ってしまった。
スクルドー!早く戻って来てくれー!と心は叫ぶが
声に出してはマズイ気がした。
シレナを脅かす事は厳禁だからな。
心を落ち着かせて、オレは静かにシレナに伝える。
「もうすぐしたら、君の理解者がやって来るからね」
「理解者?」
「そう…君の…君たちの友人みたいな者だ」
「お友だちっ!わー!」
そう言ってはしゃぐシレナだった。


とにかく歌う事を止めてくれた事に感謝するヴェルスパー
そして、スクルドの早い帰還を願うばかりであった。


大丈夫って言ったよな...



 水の妖精 3


by belldan Goddess Life.


*** *** *** ***


終りやしない...orz