水の妖精 4

大きなタライにあった水の量がしだいに減って行く。
それに遭わせてなのだろうか、シレナにも異変が
生じて来る。
早くこの状態から脱しないと、彼女の身に危険がある
かもしれない。
そう言えば、少し前から元気がなさそうな気配だ。
それに、こんな状態が続くと、また例の歌を唱和するかも
しれないからな。


ヴェルスパーの祈りが天に届いたのかどうか、それは
分からないが、程なくすると事務所の扉が乱暴に開ける
者があった。
「ただいまー!ちゃんと留守番…じゃなくて、店番か…」
えへへ〜と笑いながら、スクルドが帰って来た。
「って…わぉ!ヴェルったら!もしかして逢引なのっ?!」
ヴェルスパーの傍にいた、小さな女の子の姿を見て
思わず声に出してしまったスクルドであった。


「ちちち、違うわー!状況をよく見ろって!」
とっさに妙な反応をしてしまった事に後悔もするが
ヴェルスパーは、事態の緊張感を伝えようと躍起になる。
「この子はセイレーンの子供だ。オマエが簡易ゲートを
使った時に、どこかで引っ掛けて連れて来たんだぞ!」


「ふ〜ん…」
興味なさそうなスクルド、そして
「あっ!そうそう、仙太郎く〜ん!入って入ってっ!」
扉の向こうに立ち尽くしていた仙太郎を手招きする。
「お、お邪魔しまーす...」
不思議そうな顔をして、事務所の中へ入る少年は
その部屋に妙な緊張感を感じる。
「あの…スクルド?ボクってお邪魔じゃないかな?」


「全然っ!まったく問題無しよっ!」
エヘンと胸をはって、スクルドは誇張した。
「そ、そうかなぁ?」
「大丈夫よぉー!さささ、入って入って!」
オズオズと畏まりながらも仙太郎は、その言葉に従う。


「で?お名前は?」
スクルドは臆面もなく女の子に尋ねた。
「あたし?んとね、シレナって言うの」
「シレナちゃん…うんっ!とっても可愛いわ〜」
「可愛い?あたし…可愛い?」
「うんっ!」
「あの…お姉ちゃんのお名前…」
「あっ、あたし?スクルドって言うのよ」
スクルド? スクルドお姉ちゃんっ!」


スクルドは、自分の事を”お姉ちゃん”と呼ばれて
かなりの有頂天になってしまった。
このまま天国へ昇天してしまいそうな、そんな感じだ。
もっとも彼女は女神さまっなので、それでは帰還すると
言う意味合いになってしまうが。


事の次第はともかくとして、シレナが迷子と聞いて
ここはお姉ちゃんの出番だわよね、と息巻いていた。
「大丈夫よ〜お姉ちゃんに任せてよね〜」
ささ、行こう行こうと、スクルドはシレナは連れて
表へと向かう。行き先は当然、河川敷だ。
水の傍で、自身の法術を使ってゲートを開いて、彼女を
元の世界へと送り返そうと試みる算段だ。


残された仙太郎とヴェルスパーは、ポカンと
開いた口が塞がらないでいた。
「あの…さっきまで喋ってたよね?」
恐る恐るヴェルスパーに尋ねる仙太郎。
「う…ウニャ〜ン?」
絶対知られてはマズイと、慌てて猫なで声に変える
ヴェルスパーだった。
「あ…あれぇ?」
もしかしたら、ボクの聞き間違いかしら?と仙太郎は
頭を捻った。



 水の妖精 4


by belldan Goddess Life.


*** *** *** ***


お姉ちゃんと呼ばれたー!
仙太郎君、放ったらかしー!
ヴェルスパー! あ、いいか。。。