部屋とTシャツと女神さまっ

朝夜が少し涼しくなって来た、今日この頃。
それでも日中は残暑が猛威を奮い、まるで我慢大会をして
いるように思われる。
そんな事を思うのは、多分俺一人だが。
汗をかき易い季節、こまめに水分を補給し、こまめに下着を
取り替えるのは、言わば必然なのである。


「あ〜今日も暑かったなぁ」
部屋に戻り、おもむろにTシャツを脱ぎ捨てた俺は
タオルで汗を拭い、新しいシャツを探していた。
「あれ?確かここに…」
先日ベルダンディーが部屋の中にある籐のバスケットに
洗い立てのものを入れて置いてくれたはずだ。
「おかしいなぁ...」
上半身裸で部屋に立ち尽くす俺は、思い出す限りの場所
を探すのだか、上手く見付けられない。
先ほど脱いだTシャツを、それとなく見詰めた。
「これ…また着るのは抵抗があるよ...」
ズッシリと水分を吸収した、コットン100%のそれは
再度着用を拒むには当たり前過ぎる様相を呈していた。


そんな折、またまた襖をノックする音が聞こえる。
彼女だ。ベルダンディーに違いない。
「螢一さんっ?入っても良いですか?」
いつも彼女は、とても律儀にノックして、了承しないと
部屋には入らない。
そして俺は、こんな状況だ。つまり、半裸って事だ。
男だから、別に上半身を誰かに見られても気にはしないが
だからと言って、見せ付けるものではない筈だ。
さらに付け加えるならば、彼女は女神さまっだ。
不浄な物など、見せ付けるわけにはいかないと思った。


まて…そうすれば、俺は不浄か?


そんな自問に苦笑いしながら、先日のような状況には
陥りたくないと考え、仕方なく先ほど脱いだTシャツを
手に取り、気合を入れて着直した。
「うわ...気持ち悪…」
ズッシリ水分を含んだTシャツ、しかもその水分は俺の汗。
汗臭いにも程があるな、と泣きそうになるが、この状況下
で文句は言えないだろう。
再度ベルダンディーの催促に
「あ、どうぞー入って!」と返事をし、妙な物は無いかと
周辺を見渡した。今度は大丈夫だと思う。





「まぁ!螢一さんっ!すごい汗っ!」
入るなり、濡れたTシャツでいる彼を見て感嘆とも言える
言葉をしたベルダンディーだが、すぐに
「私、着替えを…あら?」
どうかしたのかしら?確かこのバスケットに…と不思議に
思っていた。
昨日洗濯した下着の類は、たしかここに入れて置いたはず
なのに…
あ、そうだわっ!私ったら…
「ご、ごめんなさい…すぐに持ってきますねっ」
私は赤面してしまう。だって、私ったら、あまりにも
大切に思うあまり、抱きしめて眠っていたんだわ。




「え?あ…ああ、宜しく頼むよ」
ドタドタと部屋を飛び出したベルダンディーを見送り
濡れたTシャツを着ている俺は、呆然と立ち尽くした。


俺たち…ちゃんと恋愛できてるのかなぁ...



 部屋とTシャツと女神さまっ


by belldan Goddess Life.



*** *** *** ***


とにかく汗をかく季節、こまめに下着類は交換しないと
風邪をひく可能性もありだと。
夏の陣へ赴いた戦士達なら、それは分かる筈(笑)


森里家の日常には、こんなニアミスも有り得そうですね。
螢一君の事が大好きな、女神ベルダンディーだからこそ
ちっちゃなミスを起こすと言うもの。
ズレている、とか、天然ではないんです。
それはきっと愛が多過ぎて、あふれているからなんです。


「俺の着てるTシャツからも、あふれているよ」


それは、ただの汗です(汗)