水の妖精 8

「痛っ...」
さっきコケた時に、膝をしこたま打ってしまった。
半ズボンの膝からは、少し血が滲んでいた。
タライは?持っていたタライはどこだ?と辺りを見た彼は
それがスクルドの近くまで転がり込んで行ったのを知る。
すでに中身は方々に撒き散らかされて、中身は無かった。
あの中の水…それが彼女にとって、どう必要なのは分からない
分からないが、大切な物だって事だけは分かっていた。


しかし…今は、完全に消滅してしまった。


早く、早くスクルドの元へ行かなきゃ…気持ちは焦るが
足が痛くて歩けない。
歩けないのだが、それでも気持ちは、前へ前へと募って行く。
「痛っ...!」
それでも彼女の元へ行かなきゃ!と仙太郎は歯を食いしばって
ヨロヨロと立ち上がり、歩き出した。


スクルドー!大丈夫かー!」
自分の膝の痛みなんか、かまってられない。
何とかスクルドの元まで来た線太郎だが、スクルドの放心状態
と、彼女が抱いていた小さな女の子の、今にも眠ってしまい
そうな、とても疲れた表情を見て、事態が深刻なのを改めて
察知した。
「ねぇ!スクルド!どうしたの?この子は?どうしたの!」
少しでも状況を知りたい。出来得る限り的確に知りたいと
仙太郎はスクルドに尋ねるのだが、答えは返って来ない。
スクルドは、ただ「ごめんね ごめんね…」と繰り返して
いるばかりであった。



仙太郎の後を追い掛けたヴェルスパーは、土手の上から
一部始終を見ていたが、作戦が失敗したのを確認して
「わっちゃ〜ダメだったか…」と悔しそうに呟いた。
最悪の事態を想定して、周辺に結界を張るべきだろうが
それも無理だ。今のオレには、すでに力が残っていない。
スクルドの天使、ノーブル・スカーレットに頼んで
ベルダンディー達を呼びたい所だが、彼女もすでに力尽き
そうだった。



スクルド!しっかりしなよっ!」
仙太郎はスクルドの肩をはげしく揺すって、意識をこちらに
向けようとした。
「ねぇスクルド!ボクに何が出来る?どうしたら良い?」
何かあるはずだと、仙太郎は強く願った。
スクルド!答えて!答えてくれよぉ!」
それでもスクルドの意識は、遠くに向かっている。


何か…


ふと、タライを見た。それは彼がスクルドの元へと持って行く
必要があった物だ。その中身はすでに霧消していて、数滴の
水が、申し訳なさそうにタライの中の周囲にあるだけだ。
「そうか…ボクがちゃんと持って来れなかったから…」
そう思うと、とても申し訳ない思いがあふれて来て、自然に
仙太郎の瞳から、涙がこぼれてくるのだった。
「ごめん…もう少し慎重に来れば良かったんだよね…」


タライの中に、仙太郎の涙の一滴が零れ落ちる。


キラン…と音が鳴った。


その音に、スクルドの意識が戻って来た。
「なに?どうしたの?」
スクルドは仙太郎が傍にいる事に、やっと気がついた。
「仙太郎君っ!どうして…」
そう言い掛けて、そばにあるタライに気がついた。
そうなのね、彼がこれをここまで運んで来てくれたのね。


ありがとう、仙太郎君…


でも、もう…遅いかもしれない…シレナは、もう…




水の妖精 8


by belldan Goddess Life.


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う〜ん、需要もないのに連載してるし、終わらないし(笑
でも、スクルド達、がんばって!(ベルちゃん風味)