デジャヴュ

「あ〜あ、やっぱり錆びてるよ…」
この所の長雨のおかげで、バイクに乗れなかった螢一は
母屋の裏にあるバイク置き場に傘をさして行った折に
カバーをめくって愛機を調べていたのだった。
ちゃんと錆止めをしていたのになぁ、とため息を付く。


やっちまった感が否めないのか、少し俯き加減で玄関へ
まわり、傘を畳んで框に腰掛けた。
サンダルの前、露出している足指が雨に濡れている。
冷たいよな、とつぶやき、両手で足をさすった。
框から立ち上がり、廊下を経てみんなのティールームへ
向かった螢一は、そのまま厨を覗き込んだ。
ベルダンディー?」
ちょうど昼食の支度をしているベルダンディーが居た。
「あ、螢一さんっ もう少し待っててくださいねっ」
フライパンを持って、それはあくまで格闘しているので
はなく、何と言うか、優雅に調理を堪能していると
言った風情のベルダンディーだった。


何だか催促しに来たみたいになってしまった螢一は
バツが悪そうに
「うん、いつもありがとうベルダンディー」と彼女に
労いの言葉をかけ、みんなのティールームへと顔を
引っ込めた。


雨…止むかなぁ...


手持ち無沙汰な螢一は、おもむろにTVのスイッチを入れ
手頃な気象ニュースを探し出した。
「あ…」
どうやら見つけたらしい。


”本日、午後から低気圧は北上し、晴れ間が見える見込み
でしょう” とアナウンサーは告げる。


もしかして、晴れるのか?


だったら良いな。


そして螢一は、もう一度、厨に向かって話しかけた。
ベルダンディー 午後から晴れるみたいだよ」
少し間を置いてから、ベルダンディーの返答が来た。
「良かったですねっ!螢一さんっ!」
「うん」
螢一は短く答えると、何だか安堵感があふれてくるのを
感じた。
バイクのメンテナンスも出来るし、何よりも走りに行ける。


いや、待てよ?


そうか、うん、この感じなんだよな。


ベルダンディー!」
今度は少し大きめの声で話しかける。
「は〜い!何でしょうか?螢一さんっ」
その声に合った、少し大きめの返答が返って来る。


言葉がもう、ここまであふれ返って来ているんだ。
誰にも止めれない、そして俺にも…
「あ…」


「はい?」
とても楽しそうにベルダンディーが厨から顔を出した。
「あ、いや、その…ナンデモナイ」
「はい、分かりました。もう少しですからっ!」
鼻歌まじりでベルダンディーは厨へと踵を返すと
これまた妙な安堵感が首をもたげてくる。


何やってるんだろな、俺って…



 デジャヴュ。


by belldan Goddess Life.


*** *** *** ***


優柔不断、ここに極まれり(笑)