勇者の見る夢は

小さな世界、その世界には勇者が存在していた。
彼の名は、そう、ガンちゃん。
ネズミだけれど、そんなの関係ねぇって感じで
この世界に唯一無二の存在として、女神たちを従え
昨日、今日、明日と時空を超えて行く。


しかしその世界は、言うなれば無法地帯だった。
風が吹けば桶屋が儲かる。そんな言葉がお似合いの
ある昼下がり、彼は何時もの様に厨で食欲を満たして
いたのだった。
「ふぅ〜やっぱり、ベルダンディーさんの作るご飯は
格別に美味しいですだー!」
もちもちぽんぽんならぬ、太鼓腹をポンポンと叩いて
満足げに目を細めるガンちゃんは、食欲が満たされると
必ず訪れる睡眠欲に身を委ねつつ、その小さな肢体を
大の字にして、そのまま眠ってしまった。
小さいのに大の字、まさにこれが宇宙の神秘と言うべき
なのであろうか、いやしかし、これはどうでもいい話だ。


さて、懸命な読者諸氏にはお解かりであろうが
ガンちゃんはネズミ…昨日の事など、すでに忘却されて
まるで新生したかのような今日を謳歌している。
奇怪な事件に巻き込まれる度、その都度生命の危機を感じ
蘇生してもらった回数は数知れずの彼だ。その究明を
自身の命題として追求すべきなのだが、残念な事である。


誘われた眠りは、ある歌声によりさらに加速度を増して
ガンちゃんは更なる深層意識の中に埋没して行く。
阿頼耶識と呼ばれるその中に、彼はひとり佇んでいた。
「ん…」
その歌声、それは女神ベルダンディーの声だ。
優しい子守唄のような、懐かしい母の膝の上で遊んでいた
時のような、そんな意識から目覚めた彼は愕然とした。


「こ、ここはっ!」
周りは白い空間。いや、空間と言うよりも白い夜と言った
感じで、辺りがまるで見えない。
ガンちゃんは訝った。またウルドさんの仕業なのかと。
「またですだ…これで…あれ?オラ、何か忘れて…」


すでに何を忘れていたのかさえ忘れて、彼は途方に暮れる。
しかしそれも何時もの事、日常茶飯事なのだと自身を諭し
何か怪しげなトラップは無いかと周囲を警戒するが
それも徒労に終わった。
疲労感が増して来ると、誰でも一抹の不安を抱くものだ。
そして彼も例外なく抱いていた。
「もし…オラがこのまま帰れなくなるとしたら…」
もう二度と女神たちに会えなくなる。そればかりか命さえ
保障されていない。
そう思うと、何だか息苦しくなって来た。
「あぅあぅ…オラ、オラ…このまま死ぬのはイヤですだー」
ガックリと膝を付き、悲壮感に苛まれるガンちゃんだった。


もう…ダメですだ…



 勇者の見る夢は。


by belldan Goddess Life.


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ガンちゃん第2弾ですが、話がトンデモない方向へ。
オチはアレですが、気にしないでほしいと(笑)


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