キノコ鍋かな。

「裏の山で、たくさんキノコが取れたんだよっ」
梨沙ちゃんは、そう言って大きく両手を広げた。
「こんなたくさんっ!」


それは昨日の事、ふたりがワール・ウインドへと
向かう途中で、偶然にも梨沙ちゃんに出会ったと言う訳だ。
ベルダンディーはとても嬉しそうに、彼女の言葉に耳を
傾けて、うんうんと相槌を打つ。
「それは良かったわね、梨沙ちゃん」
梨沙のキラキラと輝く瞳に、幸福な笑顔の女神さまっが
映っていた。
「うんっ!だからね、あのね、お母さんがね…」
お母さんと言って、ちょっと不思議そうな顔をして
「うん、あのねベルママじゃなくて、家のお母さんが…」
そこまで言うと、何だか面白くて吹き出してしまった。
「あははー!あたしって、お母さんが二人いるんだよねっ!」
梨沙ちゃんは、笑いながらも、ちゃんと用事を伝える。


たくさん取れたので、取りに来て下さいと。


サイド・カーのバイクに跨る螢一と、サイドに座る女神さまっ
そして、一人の小さな女の子の姿が、とても微笑ましい
家族のように見えた。


朝、出勤前の風景。



「そう言う訳ですので、申し訳ないのですが…」
定時より少し早い時刻に早退する旨を、ベルダンディー
千尋に伝えた。
「うん、分かった。良いよ。で、あたしの分もあるの?」
あたしの分…それは勿論キノコのお裾分けの事である。
「勿論ですっ!楽しみにしてくださいねっ」
「了解っ!全力で待ってるからねっ!」


仕事用のエプロンを外し、朝着ていた軽いコートに身を包み
ベルダンディーは、螢一の帰りを待たずに退出した。
無論、事の次第は伝えてある。
足取りも軽く、と言うか、ベルダンディーの場合は、もっと
軽やかにすべるように空中へ舞い上がり、彼方へと消えて
行くのだが。


「ただいま戻りました…」
陸運局から帰って来た螢一は、店の中の華やいだ空気が無い
事に気がつく。
あ、そうか…先に帰ったんだ。


「お、ご苦労さん、森里くん」
何だか楽しげな店主、千尋さんのご返答である。
「はい」
「あれぇ?ちょっと元気ないなぁ?」
「別に…そうでも無いですが」
「あ、そう」
そんな他愛の無い会話の後、千尋さんは
「あ、そうか〜ベルちゃんが居ないからセンチになってる?」
「センチって…」
螢一は苦笑しながら、言葉を続けた。
「知ってますよ、今日は用事があって…」


「でも、ちょっとした独身気分でしょ?」
ニヤニヤと笑いながら千尋さん。
「ど、独身て!と言うか、俺、結婚してませんよ?」


「あれ?あれあれ?」
とか何とか言いながら、ニヤニヤ笑って倉庫へ消えて行く
千尋さんだった。


螢一は、ハァ〜と溜息を付いた。
とにかく、今日は定時には帰りたいな。
夕飯は何だろう?アレかな?お鍋かな?



キノコ鍋かな。


by belldan Goddess Life.