星のささやき

最近、朝早く起きると吐く息が白く
気温の下降が手に取るように分かる。
もう少し、もう少しだけ、と気持ちは
布団に惹かれてしまうのだが、そうは行かない。
早く支度をしなくちゃな。


秋が深まって行く、ある日の事。


どうにか部屋を出て、洗面所まで向い
顔を洗い歯を磨き、寝ぐせの髪を撫で付ける。
鏡に映った自分の顔を点検していて、思わず苦笑い。
うん、大丈夫だ。いつもの俺だ。


「螢一さんっ 朝ご飯出来てますよっ」
ベルダンディーが、みんなのティールームから
声を掛けて来た。
「うん、今行くからっ」
もう一度鏡を覗き込み点検した。
洗面所を出て、廊下を歩く。素足にはとても冷たい感触が
伝わって来る。
それが功を奏してなのか、目が覚めて来た。


「おはよう ベルダンディー
「おはようございますっ 螢一さんっ」
俺はいつもの場所に座り、目の前にある、それは素敵な
朝食を見つめた。


素晴らしい朝の風景だ。


ベルダンディーの作ってくれた朝食を、美味しく頂きながら
俺たちは色んな話をした。
それは取るに足らない話なのだが、俺が南極の空気の話を
した時の、彼女の驚いた表情が忘れられない。
「だから、南極ってね、空気の純度がちがうんだよな
何て言うか、澄み切っているって感じなんだろうね」
ベルダンディーが焼いた玉子焼きを頬張りながら、俺は
話を続けた。
「つまり、吐く息が白いのは、不純物が含まれてるから
なんだろうね。面白いよね」


「不純物…ですか?」
首をかしげながら、不思議そうに尋ねるベルダンディー
飲み干した俺の湯飲みに、お茶を注いだ。
「うん、でもね、吹雪の後とかは、そうでもないみたい」
注がれたお茶の飲みながら、俺は答えた。
「どこからか、たくさんの不純物が吹雪によって集まる
感じなんだろうね」
何だか物知りを自慢しているようで、恐縮してしまう。


「でも、空気が綺麗って…素敵ですよねっ」
ベルダンディーは、両手を胸に組み夢見がちな表情だ。
「うん、そうだね あ、でもね、温度が極端に下がると
吐く息の水分がシュワーって音を立てて凍って行くみたい
だね。面白いよね」


「シュワー ですか? まるでソーダ水みたいに?」
「うん、多分ね」
「行ってみたいですねっ」
「うん…って!ええー!」
俺は手にしていたお茶碗を落としそうになった。



それはきっと素敵な音なんだと思う。
螢一さんっが、私の名前を呼ぶ度に、声がシュワーと
音を立てて行くのを想像してみた。


ベルダンディーはチラリと螢一を見詰める。


「あ、それからね、その音の事を『星のささやき』って
言うらしいよ」
見詰めるベルダンディーに語り掛けると、彼女は
とても嬉しそうに笑った。



あなたの言葉 星のささやき
私だけに そっと下さいね。




星のささやき。


by belldan Goddess Life.