夢の続きを

もし君が、普通の女の子だったら...


 もう瘡蓋をめくる様な、そんな生き方は止めよう。
自分の過去に封印をして、現在そして未来へと俺は
歩き出していた。
何とか卒業出来た大学には、あれから数年訪ねていない。
自動車部の部長として、そしてOBとしては、気にならない
と言えば嘘になってしまうが、それでも、あの別れの事を
思い出すと、今でも胸が切なくなってしまう。


思い出として懐かしむには、まだ時間が足りない気がする。


卒業以来、藤見千尋さんの店である ワール・ウインドに
正社員として働かせてもらって、日々忙しくしていられる
事は、有難い。ほぼ毎日のように残業をして、部屋に帰る。
あのお寺…他力本願寺には、住職が戻って来て、母屋を
返した。留守番の駄賃とか言って、幾ばくかの賃金を
渡そうとした住職に、俺は丁寧にお断りをし、住居を
引き払った。
それから店の近くのアパートを探して、最近やっと
良い物件に巡り合う事が出来た。
とは言うものの、ごく普通の6畳一間のアパートで
築40年位だろうか、かなりの骨董品だが、佇まいが
落ち着いていて、気に入った。
それまでは、店のソファをベッド代わりにさせて貰って
何とか夜露を凌いで来た。
それに比べれば、何と素晴らしい事だろうか。


その日は、いつになく穏やかな日で、残業もなく
珍しく定時上がりとなった。
「じゃあ千尋さん、お先ですっ」
「はい、ご苦労さまっ」
店の裏に止めてあるバイクまで歩いて行き、古びたドイツ
BMWサイドカーにまたがる。
キーを差し込んで、セルを回した。
乾いたボクサーツインの咆哮がこだまする。
ふと目線をサイド側へと向け、小さな溜息と交差して
また目線を前に向けた。
ヘルメットを被り、顎紐を締め、グローブをはめて
アクセルに手をやる。クラッチを切り、ミッションをロー
に入れ、ゆっくりとクラッチを繋いで行った。
アイドリングのままで、バイクはスルスルと動き出し
店の前の道路まで出る。
ウインカーを左へ、そのままゆっくりと左折して
本線へ入ると、アクセルを開けた。


バイクはそのまま、彼の住むアパートまで向かった。


色んな思いと、たくさんの人のアドバイスとが頭の中を
行ったり来たりする。
「早く忘れて、新しい彼女でも作れば?」
「あ、あの娘はどう?ほら…大学の後輩の…梢子ちゃん」
そんな事を言われる度に、丁寧にお断りしている。
第一 俺は不器用だし、奥手だしね。
本当は、忘れられる筈が無いのだから。


ずっと彼女の事を思っている。
でもそれが俺と、その周りの人の幸福に繋がらないのなら
いつか俺は、諦めて、忘れてしまうかもしれない。


ずっと彼女の事を思っている。
彼女がこの世ならざる者だとしても、いつか時の彼方に
再び出会えるような気がしてならない。


ずっと彼女の事を思っている。
もし君が、普通の女の子だったら…


「普通の女の子だったら、出会える筈も無いか…」
苦笑した。


彼女との出会いが夢なら、その続きを見てみたい。
元気にしているだろうか。天界の様子を知りたいが
それは出来ない相談だよな。
「…ベルダンディー
時々思い返すように、君の名を呼んでみる。



夢の続きを 1


by belldan Goddess Life.


*** *** ***

突然の話で…