夢の続きを 3

それは12月の朝。
そろそろ本格的な冬将軍の到来と思える寒さに、
中々身体が思うように動いてくれない。
「さ、寒い…」
それでも仕事には行かなくてはならない。
覚悟を決めて布団から這い出した俺は、小さな流しの前で
思い切りあくびをしながら、朝の支度をする。
蛇口から飛び出してくるのは、かなり冷たい水だ。
両手を浸し、その冷たさを感じ、目が覚めて来るのを待つ
時間が、数秒。 しかし寒い。


簡単な朝食を済ませ、部屋を出て行く時に、ドアに何かが
コツンと当たった。
「ん、なんだろう?」
それは小さな工具箱のようであり、とても不思議な感じが
した。
手にとって、中を開けて見た。
小さなドライバー、それにこれは多分、時計用の工具だ。
「なんで?」と不思議に思うが、朝の時間は貴重だ。
考える間もなく、取りあえずポケットに忍ばせた。


バイクを走らせ数分後、店に着いた俺は、千尋さんが
まだ着ていないのを確認し、安堵する。
「間に合った」
ポケットをまさぐって、店の鍵を出そうとした際に、先の
工具箱が頭を出してきた。
「ああ…」
もしかしたら…この工具で、あの腕時計が動くように
なるかも知れない。
しかし、動いてどうなると言うのだろう。
そんな事を考えていると、BMWのボクサー独特の乾いた
排気音が聞こえて来た。
千尋さんだ。


「おっはよー!」
とても元気な声だ。
「さっ寒いわねぇー!」
でも声と笑顔は、どう考えても常夏だ。
「おはようございまーす…寒いっすね」
早く入ろう入ろうと、千尋さんは催促した。


店の鍵を所定の場所へ掛けようとした時、またもや工具箱
が頭を覗かせた。
「あ、そうか…千尋さんっ これ…わかります?」
簡単に朝の掃除をしていた彼女に、小さな工具箱を見せた。
不思議そうにそれを見た千尋さんは
「まぁ!なんて可愛いらしいっ!」
と瞳をキラキラさせて近づいて来た。
「あたしにプレゼントっ?!わぁーい!」
「ち、違いますっ!そうじゃなくて…」
俺は、この工具で時計が修理できるか、それを知りたくて
千尋さんに聞いてみた。
「あ、違うの…つまんないー!」
詰まらないと言われても困る。
「そうねぇ…多分使えそうね。とにかく、やってみれば?」
割と好い加減な返答も予測はしていたが、そのままだった
ので、苦笑いした。


とにかく、今日は帰ったら時計を出して見てみよう。


そう思うと、何だか楽しくなって来た。



夢の続きを 3


by belldan Goddess Life.