夢の続きを 4

人は誰でも夢を見る。
それがどんな時代でも、どんな状況下でも。
殊更、苦境に立たされた時には、現状を嘆くでもなく
未来へと夢を託して、歩み続けて行く。


心のどこかで、夢を続きを求めている。
それが無理な注文だとしても、そして自身で諦めを認め
日々を恙無く暮していたとしても、だ。



珍しく残業も無かったクリスマス・イヴの前日、螢一は
まっすぐ部屋に戻り、さっそく時計を取り出して見た。
まったく動いていないのを確認する為、竜頭を巻いてみた。
「うん、やっぱり動かないな」
そこで件の工具箱を取り出して、中を確認すると
小さな精密ドライバーと、時計の裏蓋を開ける工具がある。
「これかな?」
裏蓋にあてがうと、これが見事にぴったりだ。
どこにも力を入れなくとも、すんなり開いた裏蓋を外して
中身を確認した。
精密な機械仕掛けの時計は、その機能を停止したままで
静かな眠りに付いていた。
バイクに関してはエキスパートな彼も、時計の修理は
門外漢なのだが、どうしてだろうか、自然にドライバーを
持つと、あるネジを緩め出した。
不思議で不思議で仕方ない螢一だったが、自分の行為が
あまりにも自然過ぎるので、とにかくやってみた。
「締め付けトルクとか?そんな問題なのかな?」
ネジは、僅かに緩み、そこで手が止まる。
意味が分からないが、そこで作業を止め、再び裏蓋を閉めて
ダイアル側に目を落とした。
改めて竜頭を回してみると、スルスルと動く。
中のゼンマイが見事に巻かれていくのを感じた。
「へぇ…」
それから竜頭を一段引き上げて、時針と分針を回してみた。
これは一向に動こうとはしない。
「あれ?」
時計を耳に当てて、動いているか確認して見た。
コチコチと時を刻む音がしている。
「う、動いている?!」
それでも針は、一向に動こうとはしなかった。


操行している内に腹が減ってきたので、一旦作業を止め
夕食の支度に取り掛かった。とは言っても、コンビニで
買ってきたお弁当と、カップスープだけなのだが。
やかんでお湯を沸かし、カップスープに注ぐだけの行為に
自身で苦笑しながらも、楽しい夕餉だ。


腹が朽ちると眠りに誘われるのは世の常だが、例に及ばず
螢一も眠くなってしまい。
夕餉の後片付けも、腕時計もそのままに、敷いたままの
布団につっぷして眠ってしまった。


クリスマス・イヴの前夜に、彼の時計は、そして時間は
あの日以来、やっと動き出したようだ。
眠っている螢一の知らぬ間に、腕時計は、止まっていた
時間表示から、逆周りを始めて、そしてまた元に戻った。


彼は夢を見ていた。
それは、あの頃の、とても楽しかった時の事。
モラトリアムな学生時代に、突然降臨してきた女神さまっと
出会い、暮らし始めて、たくさんの出来事があった。
始めて見た女神さまっは、とても綺麗で、一目惚れをした。
その女神さまっと暮らす日々は、毎日がまるで奇跡の連続。
時には辛い日もあったが、全ての願いは叶った。


突然の別れの日まで、輝いていた日々。
「君のような女神さまっに ずっとそばにいてほしい」と
願い、そして成就した…。


夢の続きよ、もう一度。願わくば、あの頃へ。


そんな気持ちで一杯だった。
気が付けば、眠っている螢一の目に、うっすらと涙が浮かび
頬を伝っていた。



夢の続きを 4


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


クリスマス・イヴに間に合うと思っていたのに(泣)
あと少し続きます。