夢の続きを 6

ふたりの絆、それは時が刻んだ歴史でもある。
その暦には、たくさんの記念日が輝いていて
どんな小さな事でも、どんな些細な事でも
それはすなわち、ふたりの共通の記憶であった。


昨夜、夢から覚めた螢一は、彼女から貰った腕時計が
また動き出していたのを確認した。
それから出勤、そして奇跡のような再会とあって
まるでクリスマス・イヴに相応しい出来事が連続した。
そして、その日の夜。


久々に再会した螢一とベルダンディーは、店の前で
佇んでいた。
「あの、私…行く所が無いんです…」
行く所がない。そんな言葉がベルダンディーの口から
発せられるとは、思ってもみなかった螢一であった。


とは言っても「だったら、俺の部屋に…」とは言えない彼は
彼女と同じく途方に暮れていた。
その時、一陣の風が舞った。北から吹く風は、冷たい空気を
さらに冷たくして行く。
このままここにいる訳にも行かないので、取り敢えず場所を
変え、寒さを凌ぐ事にした。
もう一度店に入るのも妙案だが、取り敢えずファミレスとか
そんな場所が良いかと考えて、自分の財布を確認し諦めた。
「あはは…これじゃ、何時も通りだ…」と苦笑い。


「取り敢えず、ここじゃ寒いから…」と言って
自分のバイクへと向かう。
ずっと使っていないサイドの幌を開けて、座席を確認した。
うん、大丈夫だ。
「あのさ、取り敢えず俺の部屋へ行こうか…」
そう言ってベルダンディーをサイドへと促す。
「はいっ 螢一さんっ」
少し安心した彼女に、笑みが戻ってきたようだ。



*** *** *** ***


久しぶりにサイドに人を乗せた。と言っても彼女は女神だ。
それも、最愛だった女性だ。
だった…と言えば過去形になってしまうが、こうして再会
しても、過度の期待は厳禁だと思った。
また、あんな別れの日が来るのは御免だし、傷つくのも
辛いし。
それでも再会は嬉しい。懐かしい親友、或いは肉親に会う
そんな感じも否ないのだが、やはり彼女は特別だった。


ゆっくりバイクを走らせる。まるで時を慈しむ様にして。


幾度かの交差点を曲がり、螢一のアパートに着いた時は
あたりはすでに真っ暗だった。
散らかっているから、少し待って、と螢一はベルダンディー
に言うと、先に階段を登り、部屋に向かった。
その言葉に頷いたベルダンディーは、しばしサイドに居たが
立ち上がりサイドを降りて、螢一の暮らすアパートを見る。
その表情は、とても切なかった。
しばらくして階段を降りて来た螢一は、バイクへと向かい
彼女を案内する。
「実はまだ少し散らかっていて…」と苦笑しながら
彼女を先に階段へと登らせた。その後から螢一が付いて
「ちょっと急なんだよな、この階段ってさ」と言葉を付け
加えた。
その先の二階、螢一の部屋の前に付いて、彼は鍵を使い
ドアを開けた。
「ど、どうぞ…何もないけど、さ」


ベルダンディーの驚きと、そして喜びの入り混じった顔が
部屋の空気を変えて行く。
部屋の中央、それは懐かしいちゃぶ台の上に、以前
彼女が贈った腕時計があった。
「まだ…使ってくれていたんですねっ」
喜びの表情で螢一を見詰める彼女に、螢一は
「あ、うん…実はさ」
本当は、昨日までまったく動かなかったと伝え、そして
不思議なんだが、今朝動き出したと伝えた。
「まぁ!」
驚きの表情を、隠さずに表すベルダンディーだった。


それはまるで、止まっていたふたりの時間が動き出した
ようでもあり、新たな時が刻まれるようでもあった。


夢の続きを 6


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


思った以上に続くのは、どうして?(泣)
読んでくださっている方々、申し訳ないです。。。
無理せずスルーしてくださいね。。。