夢の続きを 8

彼女は…女神さまっなんだ…


この一点に、螢一は思いを集中させる。
以前、俺の元へ降臨してくれたのは、サエない俺の為に
ひとつだけ、願いを叶える為だけに…それだけ。
考えれば、我ながら大変な願いをしたものだ。


しかしその願いがあればこそ、それからの数年間は
白黒だった俺の人生に色彩が生まれ、華やいだものになって
素晴らしい経験、そしてちょっと辛い経験もした。
それはまるで、恋人同士のようなふたりだった。


恋人同士? それはまるで儚い糸の上を歩くような
そんな脆い関係だったかも知れない。
何時来るか知れない別れの時を、いつも念頭に置いて
だから、その一瞬にいつも全力で…


彼女、ベルダンディーの気持ちは…


「君は…女神さまっなんだ…そうだろ?」
この一点にしか、答えが見付からない。


でも、もし…彼女が普通の女の子だったら…

ベルダンディーは、その言葉を聞きながら、少し淋しい
気持ちになってしまう。
「螢一さんっ 私が見えますか? 私…今日は螢一さんっに
告げたい事があって、だから、こうして来たんです」
「私の全て…女神として、ではなく、ただのベルダンディー
として、あなたに告げたくて…」


「螢一さんっ あなたが好きです。あなたのそばにいたい、
それだけが私の願いです」


ベルダンディーは、思いを込めて、そう告げた。


螢一の住むアパートの外は、気温が2度位に下がったのか
白いものがチラホラと空から降りて来た。
冷たくなった空気は、それその物が凛とした清浄感を持ち
あたりの世界を無垢に変えて行く、そんな感じだ。


「…俺は…ただの人間だ。それもサエない… だから、
君みたいな素晴らしい女神さまっとは、釣り合わないよ」
「それに、君といると、とても危うくなるんだ。つまり、
俺の心が、傷付くんだ…」
夢は、夢のままで良いんだ、と 螢一は思った。
その続きを夢見ても、結果は同じだ。
再生して、同じ繰り返しを願っても虚しいだけだ。


「私…ダメな女神です…螢一さんっの願いも成就出来ない」
「そ、そんな事はないよっ 本当に嬉しかったよ」
「違います…私、本当に後悔しているんです...」
本当に…全てを螢一さんっの為だけに捧げたいのに
女神としての責務とは言え、あんな形で別れてしまった。
ずっと傍にいれば…いいえ、傍にいさせてくれるだけで
それだけで幸福だった。
そのささやかな幸福でさえ、もう得られないと言うの?


「私は…女神である前に、ただの女として、あなたの前に
居て、それで…好きです、と告げました。女神でない私は
嫌ですか?」
「・・・・・・・・・」
何も言葉に出来ない。どう返答して良いのか分からない。
困惑している螢一だった。
そんな気持ちを察してか、ベルダンディーは立ち上がって
「そう、ですよね…急にこんな事を言われても、困るだけ」
ごめんなさい、と頭を下げたベルダンディー
「もう、帰らなくては…螢一さんっ、今日は、そして今まで
ありがとうございました…」


そう言いながら、名残惜しそうに懐かしいカップ、そして
腕時計を見詰め、部屋を出て行った。


夢の続きを 8


by belldan Goddess Life.


*** *** ***