夢の続きを 9

夢、夢の続きって何だろうと思った。
彼女と再会し、また夢が続いて行くとも感じたのだが
同じ繰り返しは嫌だとも感じた。
俺は彼女にとって、どんな存在だったのだろうか。
彼女は再会して「ただの女として、好きです」と言って
くれた…。


女神としてではなく、ただの女として…


「待てよ…ちょっと、待て」
それって、普通の女の子からの告白じゃないのか?
俺はバカか?例えそれがどんな相手だろうとしても
ましてや、一目惚れをしたベルダンディーからの告白を
どうして受け入れないのだろうと悔やんだ。
まだ、間に合うか?間に合うだろうか?
螢一は急いで部屋を出て、階段を降り、辺りを探してみた。
辺りは白い雪化粧を施して、まるで別世界だ。


ベルダンディー!」
夜だから控えめに名前を叫ぶのだが、生憎の雪が消音して
どこにも響かない。


声が届かない…


何とかならないのか…


ベルダンディー!」
雪降る通りに、声は虚しくかき消されて行く。


なす術もなく、トボトボと部屋に向かう螢一だったが
ある事を思い出した。
そうだ、昼間店でベルダンディー千尋さんが喋ってた。
最初は彼女、他力本願寺へ向かったそうだ。
そこに俺が住んでいない事に気付き、慌てて千尋さんの店に
やって来たと言っていた。


もしかしたら、そこに行ったのかも知れない。


急いで支度をし、バイクのキーを取り出した。
この雪の中じゃ、ちょっと危ないかもしれないが、なに
俺のバイクはサイドカーだ。慎重に走って行けば大丈夫さ。
そして、思い出したかのように、ちゃぶ台の上の時計を
腕にはめた。
何か、役に立つだろう。そんな気がした。


BMWの乾いたボクサーツインの咆哮が響き、その姿は
闇夜へと消えて行った。





*** *** *** ***



夜、その佇まいは、精妙な空気に包まれたお寺の前に
バイクが一台止まった。
アイドリングを止めたバイクからも音が消え、シーンと言う
サイレント・ノイズが辺りを支配して行く。
ヘルメットを取った螢一の口元からは、白い息が漏れる。
「ついた…久しぶりだな」
ふたりが暮らした、懐かしいお寺だ。
具体的にはふたりだけだった、とは言えないが、それでも
たくさんの思い出が詰まっている空間だった。


空気が静まり返っている。風もない。ただ雪が、この世界を
真っ白に変えて行ってるだけだ。
正門から入ると、本堂の前は、すでに真っ白な銀世界だ。
色んな思い出が蘇って来る。バグの事とか…
「っと…思い出に浸っている時間は無いんだっ」
本道の横、母屋に向かって歩を進める。


母屋の明かりは消えていた。
多分、住職のご家族たちは就寝しているのだろう。
注意深く母屋の庭を探してみた。 姿は無い。
ゆっくり歩き、裏の庭の方に行く。
そこにも姿は無かった。


成す術も無く立ち尽くす彼の肩に、ハラハラと雪が積もる。
途方に暮れ、愕然とする肩が揺れると、雪が落ちて来た。
「もう、会えないのか? 俺はまだ…」
まだ君に何も伝えていない。いや、答えてはいない。
悔しくて、握りしめた拳に力が入る。すると左手にはめた
腕時計が気になって目を落とすと、時計の針が何故だか
グルグルと回り出している。
「な、なんだ?」


そして腕時計の針は、ある方向を指して静かに止まった。
螢一は左腕を上げて、その方向を見た。
ちょうど本堂の左、その裏を指しているように思えた。


螢一は、静かに歩き出した。


もしかしたら、ベルダンディーはそこにいるかも知れない。
わずかな期待と、膨大な不安…だが、可能性が在るなら、と
歩き出した。その1秒1秒が、まるで永遠に感じる。
それはまるで、宇宙を旅する人が感じる感覚みたいだ。


螢一は念じた。それがどんな途方も無い願いだとしても
願わずにはいれなかった。
ベルダンディー...」
もう一度、君に会えたら…俺は全力で君を…



夢の続きを 9


by belldan Goddess Life.


*** *** ***