夢の続きを 10

無音の中を歩く。すでに足音さえ聞こえなかった。
ただ前を見て、ただそこに意識を集中させて、螢一は
歩いて行った。


この角を曲がると、俺達が初めてここを訪れて、そして
その朝、彼女が小鳥たちを戯れていた、あの大きな石の
ある場所がある。
あの時のように、彼女がそこに佇んでくれていたら、と
螢一は願った。
ベルダンディー
意識はすでに彼女の事しか無かった。
ただ彼女の事を思い、考え、そこに在る事を願って
本堂の角を曲がった。


ベルダンディー!」 居ない…そんな…。


確信がある訳じゃなかった。ただ一縷の望みを託して
時計の針の進む方向へと、歩いて来ただけだ。
それはまるで、広大な宇宙の中から、一点の宝石を探す
作業にも似ていた。


君が、いない…


本当に、いない…



*** *** *** ***



これが現実なのか? そして夢の続きでさえ無く
虚無のような伽藍に押し込まれた無機質の微笑を携えて
白く染まる世界の中、螢一はひとり立ち尽くした。
ベルダンディー


俺は君の事を、本当に見ていたのだろうか?
幸福の象徴、その顕現としての女神として、君の存在を
尊敬し、畏怖さえ覚えていた。
多くの人の幸福が、君の願いだと知り、それを憚る事は
良くない事だと思っていた。
俺の我侭な願いを受け入れてくれて、それだけで満足して
それ以上を望む事など、恐れ多いとさえ感じていた。
それらは全て、俺自身への言い訳だったに過ぎないのでは
ないのか?


俺は、君の何を知り得たと言うのだろうか?
あの頃の事を思うと、まるで腫れ物を触るかのような
そんな日常の中、君の笑顔、そして思い遣りは全て
無償の真心だった筈だ。
例えそれが契約上の事だとしても、だ。


俺はそれに、どう答えた?
最初から無理だと決め付け、そして諦めて、このささやかな
日々を、その一瞬を、その刹那を生きて来ただけだ。


いつの日か、夢は覚めてしまうから、その一瞬を全力で。


「違うだろ!」
螢一は心の中で叱咤した。
その一瞬を、その刹那を懸命に生きて行く事は、明日への
架け橋となる筈だ。
そんな後ろ向きな気持ちでは、明日なんか来ない。


例え、君がどんな存在でも、俺には大切なんだ。
ここに姿が無くても、俺の一番大事な人だ。


ベルダンディー!君が好きだ!君が誰であれ、そんなの
関係ないっ!君という存在を愛しているっ!」
螢一は、心から思った。


幾千、幾万の時を経ても、この地球が無くなってしまっても
俺は君を愛し続けるよ...


 

夢の続きを 10



by belldan Goddess Life.


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