君のとなりに


 水の妖精 9


ふたりの絆、それは何から始まったんだろ?
初めて出会ったのは、この河川敷だった。
この世界で初めて咲いた花のような可憐な姿は
ボクの瞳を、一瞬で釘付けにしたんだ。


あれからたくさんの日々、たくさんの会話、そして
たくさんの思い出がふたりを紡いで行く...


彼は、仙太郎君って言うんだ。ちょっと面白くて
ちょっと…カッコ良いかも、とか。
真剣な姿とか、どうしてだろ?あわてて赤面した表情とか
あたしの中にあふれてくる。


そして今も、こうして彼は何も分からないのに、だけど
あたしの事だけ考えて、一生懸命に走って来て…




タライの中に、ひとつ、またひとつとスクルドの涙が
落ちて行った。
異世界の者を召還した水と、人間の涙と、そして女神の
その慈愛の涙が融合された、その時…


螺旋状に湧き上がる水の中から、それは優しい瞳が
切なげに愛娘を見詰めていた。
「良かったっ!シレナ…」
異界から、突然消えてしまった娘の事を探すのだが
辿るべき反応も途絶え、もうダメだとさえ感じていた。
セイレーンの母は、我が手に娘を抱きしめた。
「ママー!」


セイレーンの親子は、感謝の言葉と、その思いに、一粒の
涙をふたりに手渡した。
ティアードロップの形をしたそれは、キラキラと光を帯び
冷たく、だけど暖かいものを感じさせた。



あれから、季節が巡り、また夏はやって来た。
あの夏の出来事、それはふたりの記憶に刻まれていて
そして、ふたりだけの…秘密でもある。


「ゴメン…遅れてしまったよー!」
珍しく仙太郎の方が遅刻をしてしまったようだ。
彼女、怒っているかな、と彼は思う訳だ。
「あの…スクルド? 怒ってる?」
それでもまだ、黙ったままのスクルド


あ、マジで怒ってるのかな?


「ホント、ゴメン! あの…」
「いいよ」
そう言ってスクルドはウインクした。




君のとなりに、座ってもいいかな?


「うんっ」


水の妖精 Fin.




イラストはスクラテスさん。掲載を了承くださって感謝ですっ。


しかし、可愛いスクルドですねぇ。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


追記:という訳で、長い間放置していた「水の妖精」も
 完成してしまった次第です(苦笑)