月下祭

月下祭


月に一度、女神さまっ達は深夜に庭で、ある儀式を行う。
月の光は大地を照らし、くっきりと浮かび上がる艶姿
まさに美の象徴、陰影の妖しさも切なく儚い現世を写し
幽玄な佇まいは、そのまま天上界の神殿のようだ。
風が凪ぎ、静まり返った舞台には三人の時の守護神が立つ
アルトの声をベースとした祝詞が、厳かに奏でられて行く。
荘厳な様式美を構築した魔方陣の中に、螺旋の音符達が
列を正しく紡がれて行く。
その上をソプラノがなぞるように三度五度と重なっていき
ひとつはリリコ、ひとつはメゾ・ソプラノ、三人の声が
重なり響き、螺旋の音がひとつになる時、空高く月までの
光が伸び上がって行く。
その光が月に届く間、女神さまっ達は舞い歌い儀式を行う
その姿は宙に舞い、魔方陣から発せられた光の中で輝く。


月が一際輝く。光が届いたようだ。


やがて舞い歌っていた女神さまっ達の姿は、空中から地面に
到着し、その下にあった魔方陣は静かに消えて行った。


どこからともなく夜の風がそっと吹いて来た。
その風に乗せて、神衣を普段着に替えた三人は、何事も
なかったように、母屋へと向かった。


「姉さん、スクルド お疲れさまでしたっ」
「さぁて、録画したドラマの続きを観よっと」
「はぁ…疲れた…アイス食べて寝よ…」


静寂に残された庭に、まだ月の光は妖艶に輝き
木々の葉を、石畳を、縁側を照らし、光と影のコントラストを
一層明確に現していた。
冬の切れるような空気の中、ほんのりと暖かい気持ちになって
しまうような夜に...



もう、螢一さんっは眠っているかしら
そっと開けた襖から、愛しい人の健やかな寝息を聞き
安堵と愛しさで、そのまま彼を抱きしめてしまいたい
そんな気持ちを抑えながら、そっと布団を掛け直した。


by belldan Goddess Life.