梨沙ちゃんと聖ちゃん の3

小さな女神さまっの周りに集まった、小さな天使達は
取り留めのない話や、笑い声が絶えなくて
そんな世界は、まるで天上界の様だった。


「ねぇねぇ、スクルドお姉ちゃん…このご本読んで良い?」
梨沙ちゃんが言うと
「あー!それ読みたかったんだー!あたしもー!」
と、聖ちゃんと取り合いになるのをスクルドは微笑ましく
見ていた。
「たくさんあるから…仲良く読んでね」
うん、わたしってば…まるでお姉さんっ!


ゆっくりと流れる時間、こんな時の過ごし方も悪くない。
静かになったふたりは、漫画の本に夢中だ。


お姉さん…か。 あ、もしかしたらベルダンディー姉さまも
こんな感じであたしを見詰めていてくれたのかな?
いつも優しいお姉さまっ それがあたしの目標でもある。
それに少しでも近づけたかな?と、ほくそ笑んだ。


何だか胸騒ぎがした。
それから、歌声が聴こえて来た。 お姉さまっの声だ。
やっぱり、綺麗だなぁ...


「あれ?お歌が聴こえて来るよ?」
「うん…誰? もしかしたら…」
読んでいた本を閉じて、ふたりは顔を合わせて言った。
ベルダンディーお姉さまっの声だわ」
スクルドの答えに、ふたりは頷いた。
「ねえ?行ってみましょうか?」


「うん!」 ふたりは声を揃えて。


スクルドの部屋から、まるでロケットのように飛び出して
玄関先で、もどかしく靴を履いて、庭に出たふたり。
その後をスクルドが追うようにして付いて行った。
時々、スクルドの背後からひょっこりと顔を出すのは
彼女の天使、ノーブル・スカーレットだ。
とてもワクワクしている様子である。
「あ、ダメだよっ!今日は大人しくしていて、ね」
スクルドは天使を制止するのだが、無駄なようだ。


いつもの裏庭。


そこがベルダンディーお姉さまっの歌を捧げる場所だ。
梨沙ちゃんと聖ちゃんを追いかけて来たスクルド
裏庭へと続く垣根の前に佇むふたりを見た。
そうだわよね…本当に神聖で、近づけないんだもの。
「梨沙ちゃん、聖ちゃん? 側まで行こうか?」
ふたりの背後から、そっと声を掛けた。


ふたりの背中を押しながら、スクルドは彼女がいつも
ベルダンディーの歌声を聴く、お気に入りの場所へと導く。
そっと触れたふたりの背中…何だか白い翼が見えるようだ。
不思議ね、どうしてだろう?とスクルドは思う。
でも、スクルドの背後のノーブル・スカーレットは何か分かる
のだろうか、とても嬉しそうだった。


長いハイトーンのソプラノは、それ自体が光を帯びて
天まで届いて行きそうだ。
ただの裏庭だったこの場所が、清浄なる空気に包まれて行き
まるで天上界の聖なる庭の如くの様を呈している。
木々は生命力にあふれ、その枝に佇む小鳥達も安らかな気持ち
でいる事だろう。
梨沙ちゃんと聖ちゃんは、息を呑んで言葉を失っていた。


ホント、いつも素敵な声だわ…スクルドは感嘆する。
でも、いつか…あたしも…
何だか歌えそうな気がしてきた。
「ふたり共、ちょっとここで見ていて、ね」
スクルドはふたりから離れ、ベルダンディーの元へと歩いて
行った。


声が重なっていく。
その高音で重なる音が、梨沙ちゃんと聖ちゃんの耳元へと
届くと、やっとふたりは言葉を声にした。
「わぁ…とってもキレイ」
「うん、キレイだねぇ」
それで、何だか急に歌いたくなって来たふたりは
見よう見まねでスクルドの後へと続いて行く。
幼い声が、女神さまっの声に倣おうとするのだが、あまり高い
声にはついて行けず、所々途切れ途切れになる。


きっと、ベルダンディーだけが歌っていたのなら
こんな事にはならなかった。
それはあまりにも神々しいから。
だけど、今は違う。 スクルドお姉ちゃんがいるんだもの。
小さな天使のようなふたりは、そう感じていた。


清涼な空間に、柔らかく暖かい光の玉が集まって来る。
ベルダンディースクルドを中心にして、光たちが舞い踊る。
聖ちゃんは、そのひとつを手に取ろうとした。
「ポンッ」と弾けて消えて行く。
その後には、何だかとても優しい気持ちになって来た。
「ふしぎ!」
梨沙ちゃんも続いて手を伸ばした。
「ポンッ」と弾けて消えて、ほんわりとした気持ちになる。
光の玉が弾ければ弾けるほど、何だか身体が軽くなって
今にも宙に浮かんで行きそうだ。


そんなふたりを、静かに見守っていたベルダンディー
彼女達の背中に、小さな白い翼を見つけて微笑んでいた。



梨沙ちゃんと聖ちゃん その3.



by belldan Goddess Life.