春雨

この季節、時折降る雨は悪くないと思う。
だってほら、雨のしずくがキラキラと輝いていると思わない?
思い出しかのように降り注ぐ雨に、足をとられて雨宿りして
雨雲の空と、それから少し明るい空のコントラストが不思議な
気持ちにさせてくれる。


「恋でもしたいなぁ」


だなんて、ちょっと観照的に考えてもおかしい、よね。


小さな頃、ビニール傘から見上げた空は、いつだって雨の模様に
縁取られていて、流れていく雨滴を楽しく追いかけていた。
この水は何処から来て、何処へ行くんだろうって思って
少し意地悪して指で堰き止めてみた。
スルリと水は指をかわして地面に落ちて行く。
掴めない感触って、何だろうって。


小さな小さな初恋に似た、とても感傷的な思い。
春の雨って、淡くて儚げで、でも輝いていると思う。


「初恋って、どんな味?」


ふふふ、何でも食べ物に換算しちゃうって、どうだろう。


胸の中で、キュンと搾った柑橘系の香りがした。
ふんわりと、どこからか風に乗って届けられた便りに似た 春雨。
この厳しい世界の中で、なんて綺麗な自然の力なんだろう。
多分、人生はとても辛い日々の連続で、でもそれでも人は生きて
生かされているんだよね。
風にさらされて、雨に流されて、時は無常に刻まれて行く。
いつしか今日は過去になり、見知らぬ明日が今日に成り代わる。


雨に手をかざして、その感触を味わってみた。
冷たくもなく手に振り注ぐ水は、どうしてこんなに柔らかなんだ。
例えば涙、例えば慈悲、そして例えば慈愛の雫として
春という季節に相応しい自然のプレゼントなんだと思った。


時の守護神 女神の優しい思いと共に。


by belldan Goddess Life.