恋の必勝講座 おちまぃ

スクルドの手から無数のボム達が放出される、その時であった。
それはわずか数秒にも満たない滞空時間に、螢一は逡巡して
先程の空間移動の事を思い立った。
そうか、ベルダンディーとキスする事で一瞬にして移動出来れば
この災厄は免れるのではないか、とコンマ数秒で考えた彼は
抱き合って倒れたままの、ベルダンディーの唇を塞ぐのだった。
「んぐ…」
ゴメン、と心で詫びた螢一だが、この際仕方ないと思うのだった。
刹那、二人の姿はゆらりと異空間に消えてしまう。


何もない所にボムだけが炸裂した。


「ケホケホ…うまく螢一だけを狙ったけど、大丈夫かな?」
爆発した煙の中、ひょっこりと顔を出したスクルド
その場所から二人が消えてしまったのを、その時気が付く。
「あー!あれぇ?」
呆気にとられたスクルドは、その場所に立ち尽くしたままだった。


またやってしまった…


これは螢一の心の声だ。他にも方法があったのではないだろうか
と、思い巡らせて見た。例えばスクルドのボムに対抗処置として
俺とベルダンディーの思い出ボムで迎撃するってのはどうだろう
とか、とは言うものの、これじゃ別の話だよな、と螢一は苦笑
した。
ベルダンディーと言えば、咄嗟の事であったとは言え、あまりの
状況に思考が停止した感があったが、だがしかし、それが
どんな状況であれ、螢一の方から積極的にキスしてくれた事に
喜び一杯のようだ。


いままでも、たくさんキスしたけど…螢一さんからなんて
初めての事と、その喜びは世界に蔓延しそうな勢いだ。
現在二人が浮遊している異空間にも伝播して、また新たなる
空間を構築して行きそうな感じだった。
「でも…これは…」
キスと言うよりも、エマージェンシーのせいなんだと思うと
少し残念な気がした。
やっとの事で二人が螢一の自室へ辿り着いたのは、時間にして
丸一日経過した。
その間、二人はずっと抱き合って、ずっとキスしていたと言う
事になる。


名残惜しそうに唇を離す二人、抱き合っていた腕を解いても
お互いにお互いの感触だけ取り残されていた。
ベルダンディー
「螢一さんっ」
まるで半身を裂かれたかのような気がして、お互いの手を捜す。
先に手を取ったのは、意外だが螢一だった。
「あっ...」
まるで電流が走った感じがした。それだけで心が天に舞い上がり
そうになる。ベルダンディーはそのまま螢一の胸に倒れ掛かる。
それをそっと受け止めた螢一は、再び出会えた愛しい顔を見る。
潤んだ瞳と少し半開きの唇は、誘っているかのようだ。
ベルダンディー
「螢一さんっ」
だんだん近づいて来る螢一さんっの唇に、心が震える。
「あの、ベルダンディー
「ん…」
「あのさ、キ、キスしても良いかな?なんて…あはは」
今まで夢心地の気分の中を散歩していたかのような彼女が
少しムクれるのも無理もない。
「螢一さんっ!もぅ!私から言わせるんですか?そんなの…」
「そんなの?」
「ズルイです...」
「あ、ゴメン…」
そして螢一は、襟を正すように言い直すのだ。
「キスしても良いよね」


ベルダンディーは、「はい」と言う返事の代わりに
そっと瞳を閉じて微笑んだ。


それが二人の初めての、そして螢一からの恋人としてのキスだと
後からベルダンディーは言ったのだった。


「ウソ!」
「本当ですよっ 螢一さんっ♪」



まるでジェットコースターのような展開に二人は翻弄されつつも
そのスリルを共有する事で、確かめ合う恋心は万国共通のよう。
ウルドは知ってか知らずか、そういう境地に二人を送り込んだ。
「え?それはただの偶然よぉ」とウルドなら言いそうだし
「もっちろん!知っているわよっ!」とも言いそうだ。


自称『恋のキューピッド』の面目も果たされたようだし、
「恋の必勝講座」も無事終了したって事になるのかな?(笑)



余談になるが、ちゃんとしたキス以前の物はベルダンディー
カウントからリセットされた。
恋人同士の最初のキス…それが1.として新たに刻まれた。



ウルドの「恋の必勝講座」 おしまぃ。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


「次はアンタの番よ!」とスクルドを摑まえてウルドは言った。
「えっ!ウソっ!」
「ウソじゃないもーん」
こうご期待!(うそっ!)