紫陽花/6月

6月も終わり…まるで駆け足で残りの日数を消化しようと
雨の軍勢が来てますね。
それは小学生が夏休みの宿題を休みの最後の日に取り掛かる
かのような勢いで。
連日の天気予報は傘マークばかりで、ちょっと辟易しますが
毎年ある行事だし、避けて通れないのなら楽しむ術を見つけ
快適にすごしちゃいましょう。
なんと言っても人は環境に左右され易いし、適応能力もあり
きっと大丈夫だと、思いたい(笑)


この手の環境、いわゆる自然の事は致し方ないと思いますが
もっと自身に応じた適正環境が在るのなら、現在居る環境を
変えてみたいと思いませんか?
しかしどんな劣悪な環境だとて馴染んでしまえたら、そこが
パラダイスになってしまうのも人の道理。
与えられた物に対して、足ることを知るのも大切な事ですが
それは我慢とは違うと感じてなりません。


出来ないから我慢するとか、足りないから我慢する、とか。
まるで自身の人生を前後裁断して今しか見てないような
そんな我侭ぶりを呈しているようで。


人は変わって行けると思います。
ただし、外見がいくら変化しようとも、心の中にある価値
それそのものが変わらないと、何も変わらないと。


夏が来る前に、ちょっと自身の心の中にある価値を再点検
したりしませんか?
特に飽きやすい方とか、躁鬱の方とか、心の中にある
自分だけのコアになる価値を。


*** *** ***


長雨が続く、ある夏の前の季節。
湿気を十分吸った部屋の中で、まんじりと時を過ごしていた。
「これじゃあ洗濯物も乾かないよな」
自分が洗濯してないくせに、そう言った問題定義をして。
ベルダンディーも大変だよなぁ」
螢一はそう呟いて、仰向けになり天井を見つめた。
雨漏りの気配は無し。以前修繕したから大丈夫か、と思った。
ゴロリと体を横に向きを変えて、側にあった雑誌を手に取る。
パラパラとページをめくって、ぼんやりと眺めていた。


外の雨音が、まるでノイズのように耳にまとわりつく。
いったいどれだけ降れば気が済むんだろうと、体を起こして
窓際まで行った螢一は、ふと窓の外にある紫陽花に気がつく。
「今年も咲いている」
雨粒にたたかれ、まるでリズムを取るようにして揺れている。
シンバルのような音色を出しているのかな?と考えてみる。
「シャンシャン〜とか?」
これじゃタンバリンだよ、と螢一は苦笑いする。
シンバルの音ってどんなだろう?そもそも、どんな音だ?
聞いて見ようか?と思ったのだが、外は雨だ。
だが疑問は、と言うか、どんな音なのかと言う欲求は募って
螢一は重い腰をあげ、のろのろと部屋を後にした。


玄関先にて。
濡れてしまって良いような草履を探し出し、手には雨傘を。
汗で湿ったTシャツとロールアップしたジーンズを履いて
そろりと母屋を出て行く。
母屋の裏に周り、自身の部屋の前にある紫陽花の前に立つ。
薄紫の花弁に雨粒が当たって、楽しげだと思った。
これは何て言うリズム?これが自然の、雨のリズム?
そんな事を考えながら、じっと観察していた。
そう言えば差している傘に当たる雨粒も独特なリズムを奏で
より一層不思議な感じを提供しているようだ。
「何て言ったか…ポリリズムってやつなのかな?」
不思議な居心地良さに、どれ位時間が経ったのだろう。


「螢一さんっ?」
その声に振り返ると、ベルダンディーが立っていた。
彼女は傘もささずに、法術で雨をかわしていた。
その姿を見て螢一は考える。
ベルダンディーに聞こえている雨音ってどんなのだろうか。


ベルダンディーは静かに螢一の元へと歩いてくる。
まるで宙を浮いているようにして。
ベルダンディー
「はいっ」
「雨に濡れちゃうよ、傘に入りなよ」
思わず言ってしまったのだが、彼女は雨に濡れてはいない。
「はいっ!」
ベルダンディーはにこやかに微笑み、螢一の傘に入る。


「あのさ、雨音ってどんな感じなのかな?」
「螢一さんっ、紫陽花を見つめていたんですね!」
ふたりは同時にお互いに聞きたい事があったんだね。
「あ」
「あ」
それから互いに笑い合い、そして見詰め合った。


「綺麗な音ですよ」
「どんな音がするかって知りたくて」
またしても同時に答え合うふたりだった。




「ねぇねぇウルド?おねえさまと螢一、何しているの?」
「そうねぇ…カタツムリでも採ってるんじゃないの?」
「なんで!」
「知らないわよ!」



紫陽花/6月


by belldan Goddess Life.