夢見る…2

いつもの河川敷には、川面を渡る心地良い風が吹いている。
辿り着くまでの数十分の疲れも癒されるってものだ。
動力を駆使して土手に上がったスクルドとばんぺい君RXは、いつも
仙太郎が練習しているフープの方を眺める。見覚えのあるBMXとそして
気になるアイツは、何時も通りそこに居た。
日常ってのは案外普通に見えてそうじゃない。もしかしたら…と言う事も
あるかも知れないからだ。
心の中に安堵を覚えるスクルドであった。
「ちゃんと練習してるわ」 そう口にするとなぜかホッとした。


しばらく土手の上で彼の姿を見ていた。こう言った距離感って新鮮で
何だか楽しくなってしまう。先に気が付いた方が負けって訳じゃないけど
でも、仙太郎にあたしを見付けてほしいな、とスクルドは思う。
するとフープの方から大声が聞こえる。
「おーい!スクルドー!」
ほらね、ちゃんと通じている。何だか見えない糸で繋がってるって感じ。
「仙太郎ー!」
スクルドはばんぺい君RXにまたがり、川面へと降りて行った。


「ちゃんと練習してたんだ!」
「当たり前さ!今度の週末は大会だかんね!」
「うん、えらいえらい!」
「えへへ…あはは!」
仙太郎が笑う。それだけでどうしてこんなに胸がキュンってするんだろう
スクルドはそう意識すると顔が真っ赤になる。
そうだわ、ここに来る前にスポーツドリンクを買って来たんだ、と
ポシェットの中から取り出して、仙太郎に渡すのだった。
「あの、これ…ついでに買ってきたの。ついでだから、ね」
「うん、ついででも嬉しいよ。ありがとうスクルド
満面の笑みで受け取る仙太郎だった。
本当の気持ちが上手く伝えられないスクルドと、天真爛漫に受け答えする
仙太郎は、とても対照的なのだった。


フープの側にあるベンチに腰掛けて二人、しばしの休憩タイム。


スクルドは思う。仙太郎君があたしの王子さまだとすれば、彼は女神の
恋人と言う訳だ。
その先人として、ひとつ上の姉ベルダンディーと螢一の事を考えてみた。
そのふたりは、住んでる世界も次元も何もかも異なっていて、それでも
惹かれあってこの世界に存在している。
それはとても異常な事なのである。
通常、相容れない世界の住人との接触
想像出来るが実現は可能とは言えず、大抵の場合は想像の粋を出ずに
いわゆる妄想として終焉を迎え、やがては忘れ去られて行くのが常だ。
この世界、人間界の世界は天上界とは時間の進み方がまったく違う。
多分…あたしが成長し、お姉さまのような1級神になる頃には、彼は
何度もこの世界を輪廻転生し、今の姿形、そしてその個性までも変えて
生まれてくるに違いない。
その時の流れ、その雄大な時間の海原に何度も漂流しながら彼は、
あたしの事など忘れてしまうと言う事は想像に難くなかった。


それでも!それでも…ベルダンディーお姉さまは、螢一の事を忘れずに
何度でも何回でも生まれ変わって来るその生命にコンタクトして来たと
思うと、何だかとても切なくなって来てしまった。


「うう…」
そんな事を考えているから、涙目になってしまったスクルド
「えっ!どどど、どうしたんだ!目に何かゴミでも!?」
慌てた仙太郎は、ポケットからハンカチを取り出す。
「ううん、違うの…」
ありがとう、と言いながら差し出されたハンカチで目頭を押さえ
「ちょっと思い出しただけ…」


それを思い出と言うのはどうだろうかと思うが、未来を司る女神の
未来予想図には、鮮明に刻まれたようだった。
後は自分次第だ。今感じたそのピュアーな思いを成就させるかしないは
彼女の思いにかかっている。


でも…きっとあたしは姿形を変えた仙太郎を見付ける。
その時、仙太郎?あなたは、あたしに気が付いてくれる?


仙太郎は、思わず見蕩れてしまった。
スクルドの瞳の中に映る自分の姿と、キラキラと輝く星に、心が
吸い込まれてしまいそうになる。
スクルド、大丈夫さ。ボクが君を守るから、ね!」
君の事が、大好きだ、と仙太郎は思う。声には出さないけど。


「ほんと?」
「うん、誓う」
「きっとよ!」
「うんっ!」


乙女は夢を見る。そしてそれは女神さまっとて同じ事なのかも。
出会ったばかり、始まったばかりの小さな恋も、やがて大河のように
大きな愛情にならん事を願いたいですね。


先輩たちのように、ね♪


夢見るジュリエット/夢見る未来の女神さまっ END.


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


ごらんの有様で。