あいしている、の「あ…」

穏やかな日々、他愛のない日常をこうして過していると
時間の概念とか、世情とか、まるで止まっているような
そんな感覚になる、と言う事。
心持ちはたおやかで、どこに出ても問題は無いと思うのだが
それでもこうして自室に篭っているのはきっと、訳がある。


その訳は?


締め切った窓から、柔らかな日差しが見える。
季節は夏だと言うのに、この部屋の温度湿度は絶妙な設定で
時折汗をかいてしまうのは、言うなれば緊張感だろう。
考えてみれば、全ての事象は思う事から始まった。
思いは形になる。思いは歩き出し、仲間を呼び、世界を回り
構築して行く。何を? それはきっとキミが忘れた思いだ。


忘れ去られた思いは、熟して、或いは異熟してカタチを形成
し続けて行く。そのスピード、その距離は時間と平行して、
時間と径行して進んで行くのだろう。
それはまるで旅人の記憶のような、或いは開拓者の気概の如く
勇猛果敢に進行しているに違いない。
古来から人々の営みに想像が欠かせないのは、多分、いや
きっと、そこに人間の本来の姿があると思う。


「ワタシはワタシの思考に縁りワタシになった」


今現在のワタシを形どるワタシと言う存在の元は、唯の思考
に過ぎない。その思考の性質は少し曖昧で、成形されるのを
拒むのだが、この世界、或いは三次元に置いては、そうした
手段でコミニュケイションを行うのが適切だと設定される。


だけど、でも、どうしてこんなに感動してしまうのだろう。


本来の姿、この世界の姿は、とてもとても美しいものだと
感じてしまうのが、怖いくらいだ。
現在に不満を持つ者、未来に不安を持つ者、過去に遺憾を
そして後悔を持つ者、それはそれはたくさん。
しかし、それらは全て自身が作り出した思いが発端で
長い長い時を経て、現在の形になったと言う事実は変えれない。


明日の自分を想像しても、何も変化は無いかもしれない。
でも、その明日と言う日が100年後、或いは1000年後
だとすれば、キミの想像を遥かに超えたキミが存在すると
思うのはワタシだけなのだろうか。


*** *** ***



「あ、ベルダンディー 髪留めを変えたんだね」
「えっ?!あ、はいっ 少し変えてみたんです」
「とても似合っていると思うよ うん」
「あ、ありがとうございますっ!螢一さんっ」
長い髪を束ねた髪留めをさすりながら、微笑む女神だった。


そう、こんな事が以前あったんですよ螢一さんっ。
この世界の時間から見れば、それは数百年前なのですが
私、まるで昨日の事のように思えて、嬉しくて。
あなたのさり気無い一言が、こんなに私を鼓舞させているって
螢一さんっ?知ってますか?


「お茶、淹れて来ますねっ」
そう言ってベルダンディーは、螢一に背を向けて台所へ向かう。
遅れて長い髪がふわりと彼女の後をついて行く。
ふと風が起こる。そして彼女の優しい香りが鼻腔をくすぐる。
螢一はそれを見ながら、デジャヴュを感じる。


多分きっと…俺はずっと前からベルダンディーの事を知ってる。
でなければ、この愛しい気持ちを説明出来そうにない。
「あ…ありがとう…」
ちょっと顔が赤くなりそうだ。妙に汗も出てくる。


そして、最初に出た言葉、「あ…」は...。



by belldan Goddess Life.