それが奇跡ってもの

日中の日差しが嘘みたいに寒さを運んで来る夕暮れ時は
近くの公園の長く伸びたブランコの影を見る度に思う事がある。
もしかしたら、君に出会わなかった俺って、とても平凡で
途轍もなく普通の人生を、ごくごく普通に生きてのだろう、と。


繋いだ手の温もりが心地良ければ良い程、そんな事を考えて
しまうのは、きっと季節のせいなんだと思った。


秋の夕暮れに。


黙って俯いて、君との帰り道に。こんなに素敵な女性が居る
こんなの素晴らしい女神さまっが傍に居るって言うのに。
何を話せば良いのだろうか?気の利いた言葉、コンテンツが
皆無な俺に、天からの贈り物と称して、何か降りて来ないか?
そんな時、ギュと握り返して来た君の柔らかな掌に、ドキっと
したのは言うまでも無いが。


「どうしたんですか?螢一さんっ」
「あ、いや…ナンデモないよ」
「そうですか…でも、何でも仰ってくださいねっ」
「うん、そうするよ…」
そうするよ、とは言うものの、何をするのか、それが問題だ。
「螢一さんっ?」
「あ、ああ…あの、さ…その、俺の魅力って…なんだろう?」
と、何て質問をしているんだろう。
少しトンチンカンじゃないのだろうか?と訝ってしまう。


ベルダンディーは少し驚いた表情をして、それからゆっくりと
笑顔に戻った。
「うふふ…たくさん有り過ぎて…どれから言って良いのやら」
そう良いながら右手を口に当てて含み笑う。
その仕草が意味深で、思わず彼女を見詰めてしまった。
「たくさん有るって…本当?」
「ええ、それはもう」
「教えてくれないかな?」
「はいっ」


ベルダンディーは、襟を正すようにして、俺を直視した。
「螢一さんっの素晴らしい所は、何事も普通だと言う事です。
どんな人でも、初めから何かが出来る訳ではありませんものね。
普通に努力して、自己研鑽して、たくさんの経験を積んで、
もちろんたくさんの成功も、たくさんの失敗も…そして
どんな状況に置いても、生まず弛まず平凡に努力している姿は
とても素晴らしいものだと思うのです」


「で、でも…その、結果に結びつかないのなら…」
「結果ですか?」
「うん、例えば…成功して賞賛される、とか?」
「ええ、それも素晴らしい事ですが、でも螢一さんっ?思いませ
んか?長い人生の中で、一番長く過ごす時って、どんな時間なの
かと言う事を…」
「あ、そうだよな…ごくごく普通の生活が一番長くあるよね」


ベルダンディーは微笑む。
「その長い時が、一番輝いていて、そして楽しくなければ
自ずと結果には繋がらないと思います。それに…」
「それに?」
「だって、こうして螢一さんっと手を繋いで歩いている時間が
たくさんたくさん…あってほしいなぁ、って」
そう言いながら頬を染める女神さまっだった。


思えば、突然の出来事であったベルダンディーとの出会いは
俺の平凡な日常を劇的に変化させると感じていた。
新しい出来事や、非日常な事が、これから毎日繰り広がって
行くのだろうと、ぼんやりと思ってもいた。
もちろん、そんな出来事も在るにはあったが…


「普通に…」
俺達の出会いが劇的なものではなく、自然に、或いは必然だった
としたら、そうなのかもしれない。
「平凡に…」
色んな事があったけど、でも、それって誰にでもある事かも。


「いつまでもこうして歩いて行きたいなぁ」
「私もそう思います」


それが奇跡ってもんじゃない?


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


忙しい合間、そういう時って何だが時間のやり繰りが
上手になるってホント?(笑)