君に届けと追い風が 7

でも、どうしてだか、シーグルを肩車している ばんぺい君RX
が、とても幸せそうに見えた。
勿論、彼には表情と言う物が無い。無いのだが、そこかしこに
彼の彼女に対する愛情が溢れ出しているような気がする。
頬を染めて、ふくれっ面のシーグルだが、でも満更でも無いと
言った感じで、あ、もしかしたら、これって照れているだけかも
、と思うと、苦笑いしてしまう。
そう言えば、俺達も似たような者同士だな、と螢一は思った。


「ところでウルド…使い方は?」
何やら忙しく用意をしているウルドに尋ねる。
「簡単よぉ!ここからジャンプして、シーグルにダイブすれば
全ては上手く行くって訳!」
ウルドが指差した場所を見ると、跳び箱などに使う踏み台が
肩車している二人の前にあった。
「あー、なるほど、これを使ってジャンプして…?あれ?」
ジャンプして…って、一体何にジャンプするんだ?
ベルダンディーの居る本堂の屋根は反対の方向だし…。


「あれ?じゃないわよー!ほら、ばんぺい君の上にいる娘に
ダイブするのよ!」
ウルドは真剣な面持ちで説明する。
「シーグルにダイブだと?! そんな事をしたら…」
螢一は想像する。この作戦を実行するには、かなりの危険が
ある。
まず、言われたとおりにダイブしたとしよう。


シーグルは、思わず『ロケットパーンチ!!』の声と
共に、凄まじい勢いで相手を殲滅しようとするだろう。
いや、その前に、砲台になっている ばんぺい君RXが
その進行を阻むかもしれない。


「ケーイチ!早く!」
ウルドは急かすのだが、生身では死ぬやもしれない状況で
了解!とは言えないよな。
「なぁ、ウルド…俺は生身の人間なんだし、無茶は出来ないよ」
それに良く考えたら、螢一はTシャツ一枚の姿だった。
「ああ!そうだったわねぇ…」
ホントに忘れていたんだよな、ウルドのヤツは。
「仕方ないわねぇ…コレを貸してあげるわっ」
そう言ってウルドは、胸元から何か布を取り出した。
「コレは神衣と同じ素材で出来ているから、安心よっ」
ウルドは螢一に手渡す。
その素材が何かは分からないけど、本当に軽く薄い。
こんなので大丈夫かな、と不思議がる螢一に
「アタシが保障しますっ!」
とウルドは胸をポンと叩くポーズをした。


ウルドの保障がどれ程のものかは、想像すら出来ないが
ベルダンディー達が纏っている物なら、多分大丈夫かと。
「どんな衝撃にも耐えれるのかな?」
螢一は布で身を覆いながら、ウルドに尋ねた。
「そうよ〜何Gでも耐えるわ〜!」
ウルドは嬉しそうに言う。
何Gって…それじゃあ人間の方が壊れるよ。
「待て!今からする事って、そんなに負荷が掛かるのか?!」
「ダイジョウブよ〜!アタシが付いているからねっ!」
「それが不安なんだよなぁ…」
「何か言った?」
「べ、別に…」


用意は出来た。準備万端、とは言わないまでも。


後は実行に移すのみ、だ。


「じゃ、じゃあ…行くよ?」
「はーい、いってらっしゃーい!」
ウルドはヒラヒラと手を振る。
螢一は助走をつけて、ジャンプする踏み台へと駆けて行った。



 君に届けと追い風が。(その7)


by belldan Goddess Life.


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もうすぐ11月も終わりですねぇ。
風邪引かないように。