君に届けと追い風が 8

「いっけー!」
螢一は走り出す。何だかとても体が軽い。
多分、神衣の布の特性なのだろうと考える。
フワリとジャンプ台に飛び乗ると、思いの外、体が浮かんだ。
「わわっ…」
そして、そのままシーグルの元へと、上からダイブする格好に
なった。


シーグル、そしてばんぺい君RXは、待ち構えたようにして
上空にいる螢一を睨み付ける。
その時、砲台であるばんぺい君RXのマニュピレーターが螢一に
襲い掛かる。
螢一は空中で反転して、一撃を交わした。あまりにも直線的な
攻撃だから、割と容易に出来た。
「行けるっ!」
螢一は、そのまま一目散にシーグルを目指す。


「ロケットパーンチ!」
シーグルの掛け声と共に、彼女の左腕が唸る。
有線されたソレは、螢一に向かって突進してくる。
想定内だ、と螢一は思った。交わせる、と。
紙一重で難無く交わした螢一は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


その直後だった。


「ダブル!!」
そう、先程のロケットパンチはフェイクだったのだ。
まるでジャブのような先制パンチは、実は右のアッパーに繋げる
為に用意されたものだった。
右へ逸れてしまった螢一のボディに、重圧なパンチがめり込んだ。
「ぐはぁー!」
その身が、みるみる上空へと飛ばされて行く。


思えば先のばんぺい君RXの単調な攻撃も、左のパンチも
全てはこの一撃の為にあったんだ、と…螢一は痛感した。


神衣のおかげもあって、身体に痛みはあるが、ダメージは少ない。
そして、まるで加速度的に空へと舞い上がってしまうのも
少なくとも神衣のせいだろう。
天女のはごろも…そんな昔話を思い出した。そして、もしかしたら
俺はこのまま、天に昇って行ってしまうではないだろうかと、
不安も過ぎる。
自身の人生が、走馬灯の様に見えてしまうのではなかろうか、と
更に不安は募ってくる。


だが、そんなものは全く見えて来ない。


それどころか、引力と言うか、地球の重力に引っ張られて
そろそろ落下して行くようだ。
眼下には、小さくなった本堂の屋根が見える。
「もしかして…俺、このまま死ぬのか?」
高度はかなり高いと思う。パラシュートも付けていない状態で
こんな所から落下してしまったら、かなりの確立で死ぬだろう。


「い、いやだいやだいやだ!こんなので死ねないっ!」
いや、しかし、このままだと…本当に走馬灯を見る羽目になる。
まだやり残した事があるんだ!俺はベルダンディーを…


地上にある本堂の屋根に居るベルダンディーの姿が見えてきた。
そうだ、ベルダンディーの元へ!初めからそうだった。
ベルダンディーを助けたい、その一心でここまで来たんだ。


ベルダンディー!」
本堂の屋根に向かって、大声で叫んだ。



 君に届けと追い風が。(その8)


by belldan Goddess Life.


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気が付けば連載している…ふしぎ!