君に届けと追い風が 9

晩秋の風が、ベルダンディーの亜麻色の髪をくすぐる。
ふわりと香りを含んだ風、その中にとても懐かしい匂いを感じる。
安心できる時間と場所、それは私の螢一さんっの居る場所だわ。
ベルダンディーは螢一を思う時、自然に頬が緩んで笑みになった。
不思議な感覚、天上界と螢一さんっが、まるで融合したような、
そんな感じを覚えた。
周りに居た猫達がざわめき出す。


何かしら?と遥か上空をベルダンディーは見上げた。


そこには神衣を纏った男性が、こちらに向かって降下している様が
見て取れた。
「まぁ! でも…あれは誰? 神属ではない、と思うのだけど」
ベルダンディーは不思議そうに目を凝らすのだった。


声がする。
その声は私を呼んでいる。
その声は、聞き覚えのある優しい声だ。
懐かしくて、新しい、一番聞きたい声だ。


「螢一…さんっ?」
でも、どうして?まさか、空をお散歩中だったとか?


ベルダンディーの周囲にいた猫達は、異変を感じて雲散霧消して
しまった。


そして、遥か上空には、ベルダンディーの最愛の人が居る。


ベルダンディー!」
螢一さんっの声だわ! 逢いたい、早く螢一さんっの元へ!
そう思うと同時に、ベルダンディーの周囲には法術が展開されて
ベルダンディーは宙へと舞い上がって行く。
「螢一さんっ!」
この両手に、この胸に、私の大好きな方を抱きしめたい、と
ベルダンディーは、そう思った。それは、とても自然な事だと。


上空に両手を高く掲げ、その全てを慈しむようにして。


「螢一さんっ螢一さんっ螢一さんっー!」
愛しい人の名を呼ぶのが、こんなに幸福だったなんて、
分かっていたつもりだったけど、本当にこんなに…。


嬉しい。


 君に届けと追い風が。(その9)


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


大丈夫、ちゃんと届くから。