冬休み(仕事中だけど)

冬の雨は、とても冷たいものだけど、でも、ちょっとだけ
暖かな気持ちになってしまった。不思議だけど。
「雪にならなくて、良かった」
スタッドレスタイヤは装着していても、これ以上運転に神経を
使うなんて、とても出来ない、と思った。


車のドアを閉めて、エンジンに火を入れる。
アイドリングの音を聞きながら、ヒーターのスイッチを入れた。
送風口から、暖かな風が流れ始めると、やっと安堵の息を漏らす。
「ふぅ、次は、と」
次の店は、最近人気のバイクショップだ。
気風の良い姉御肌の店主と、まるで女神のような店員さんと、
小柄で、とても人の良さそうなメカニックがいると言う。


「今度こそ…うん、がんばろう!」
ドライブレンジに放り込み、アクセルを踏み込んだ。


何個目かの信号を左折して、本道から少し入った道に
ワールウインドと看板が掲げてあるバイクショップがある。
店の前に着くと、スピードを落として、ソロソロとパーキングに
車を入れた。
車の音に気づいたのか、店のドアにある鈴がカランと音を立てて
開いた。
「いらっしゃいませ〜 あら?」
栗色の長い髪と、まるで慈愛そのもの、そんな笑顔を振り撒いて
ベルダンディーと名乗る女性が現れた。


「いや、あの…俺は客じゃ、ないんだけど…」


訪問販売をしている旨を伝え、店主に会いたいと続けた。


「…千尋さんは、今、居ないんです…」


どうやら店主は席を外しているようだ。
どうにもツイていなぁ、と天を仰いだ。


こんな日も、あるよなぁ…


その女性、俺の持っているサンプルが気なるらしくて
「あの…その花は? とても可愛いですねっ」
そう言うと、にっこり微笑むのだった。


「あ、これは…その、サンプルなんですよ…」
店主も居ないんじゃ、ここも無理だろうな、と俺は
「あははは…今日は帰ります、また寄らせて貰いますね」
そう言って踵を返そうとした時、ふと思った。


こんなツイてない日だけど、でも、何だかちょっと得した気分だ。
可愛い猫にも会ったし、そして今、女神のような女性にも…


損得勘定無しで、これをプレゼントしよう。


「あの、サンプルなんですが、よかったらどうそ…」


「え?良いんですか? わぁ〜ありがとうございますっ」


俺は、それじゃあ、と言い残して店を後にした。
外は少し暗くなっていて、すっかり北風が支配していた。
「さむっ」
小走りで車に戻って、エンジンをかけた。
ヒーターから暖かい風が車内を駆け巡る。


車の中は暖かいよな。
でも、
今日はちょっとだけ、心も暖まった気がする。


「うん、明日もがんばろう」


リューガさんの冬休み(仕事中だけど)


by belldan Goddess Life.


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がんばれー。女神さまっのご加護がありますように!