男の戦い(乾布摩擦編)

風が冷たい昨今ですが、日中は雲間から覗く太陽の日差しが
とても心地良いものですね。
街の中、建物の影との間に生まれる光の贈り物は、それだけで
何という大きな喜びなんでしょうか。
何時もは日差しを嫌って、日傘などを差しているご婦人達も
この時ばかりは、日当りの良い場所へ、ごくごく自然に足が
向いているが見られます。
眩しそうに空を仰いで、その表情は、とても笑顔だったりして。


遥か以前では、自然の四季は人類にとって驚異でもありました。
それは畏怖され、信仰の対象にもなり、どうやっても抗えない
巨大な壁の様でもありました。
それから、いつしか人々は知恵を使い、たくさんの難業を越えて
厳しい自然と融合しながら歩んで来ました。そして、
現在のような、非常に便利な世の中になった訳ですが...




「寒いっ!!」
それは1月のある日、場所は猫実市の小高い丘にあるお寺の
その横にある母屋で暮らす、ある男の発声だった。
「マジで寒いっ!!」
これは第二声。
この男、その格好はまさに服を着た雪だるま、或いはダルマ。
重ね着の王様のような様相を呈してた。
下には、分厚いタイツ、そしてデニムと、オーバーパンツまで
穿いていた。上は、冬用の長袖シャツ、厚めのネルシャツで
さらにシェトランドセーターに、軍用のコートを羽織っている。


ここは室内である。


暖房器具は、万年床のように敷かれた布団が一式だけ。
昼間なので布団にこそ入ってはないが、もうひとつ何か、それは
何でも良いのだが、寒くなる条件があれば、必然的に彼は
布団の中に潜り込んでしまうだろうと推測が出来る。


繰り返すが、ここは室内である。


でも、まぁ・・・パソコンには良い環境だよな、と彼はつぶやく。
もっとも、分厚い手袋をしていては、キーボードは打てないが。
「台所にでも行くか・・・」
このまま、この場所に居ては遭難の危機もある。
まずはやかんに水を入れて、湯を沸かして・・・と彼の心は
作業確認を怠らない。


廊下をノロノロと歩く。突き当りを右に曲がり、台所へと
向かった。


「あら、螢一さんっ おはようございますっ」
その天女の声は、そこだけ春の日差しに包まれているようだ。
「そろそろ起こさなくちゃ、と思っていたんですが・・・」
申し訳なさそうな表情、そして
「でも、どうしたんですか?!その・・・」
と、ここまで言って、クスクスと笑い出した。
「可愛いですっ!螢一さんっ!」
可愛い愛玩ペットを見るような、そんな眼差しを向けて言った。


「あ・・・うん、おはようベルダンディー・・・」
室内だと言うのに、吐く息が白いよ。
でも、どうしてベルダンディーは、そんな薄着で大丈夫なのかな
と不思議に思う彼だった。
ああそうか・・・彼女は女神さまっだった、と再確認をする。
でもしかし・・・だからって、そんな薄着では寒くはないのか?
そんな自問自答を繰り返していたから、つい
「あのさ、寒くないの?」
と、尋ねるように聞いた。


「ええ」
と、にこやかな笑顔が返って来た。それから
「ああ、いけないっ 直ぐに暖かいお茶を淹れますねっ」
そう言うと、厨へと向かった。


厨の前にある、みんなのティールームと称される場所には
タツが置いてある。
みんなが集まる場所なんだから、暖かい場所にしたいなと言う
思いから、置いたのだが。
螢一は、ごく自然に足をコタツにすべらせる。
「あ・・・」
むろん、電気は入っていない。 とても冷たい。
思わずコンセントにコードを差込み、スイッチを入れた。
ほんわかした赤外線の赤色が、コタツの中に灯る。
「あ〜」
まだ暖かくはなっていないが、それでも何だか嬉しい。


だんだん、足元が天国へと赴いて行くようだ。
ホカホカして気持ちよいなぁ、と表情を緩める。


「螢一さんっ お茶が入りましたっ」
そう言ってベルダンディーが厨から戻って来た。
お盆には、淹れたてのお茶の湯気があがっていた。
その横には、何か白い物があった。
「これは?」
螢一は思わず尋ねる。
「肉まんですっ」
ベルダンディーは楽しそうに答えた。
「白くて雪のようで…でも、暖かいんですよっ」


これは嬉しい。螢一は素直に感謝を持った。


さて、では、暖かい物を…と思ったその時。


「おぉ〜い!森里は居るか〜 元老院直々に尋ねて来たぞー」
と野太い男の声が複数聞こえて来たのだった。


 つづく。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


まさかの元老院登場。しかし予定調和。