男の戦い(死闘編)

「ふふん〜面白くなって来たわねぇ」
「ね、姉さんっ」
「寒いのに…バカじゃないの?」
スクルドまで…」


さて、玄関先から庭まで向かった男三人の行方を、こうして
女神三姉妹が揃い踏みしてのご観覧と相成った次第で。


「行くぞっ!大ちゃん!」
「おうさ!田ちゃん!」
屈強な大男ふたりは、もろ肌脱いで仁王立ちだ。
双方、手には小さな手拭を持ち、サッと背中に回した。
「うおおおおー!!」
「おりゃああー!!」
その鍛え上げられたふたりの腕は、物凄い速さで背中を摩擦して
行く。


「くっ…」
や、やるしか無いのか…
螢一は意を決して、最後のロンTを脱ぐ。
「ぐはぁ…(寒いー) い、いや、しかし…」
やるしか無いっ!
「うおおおおお!!」
上半身裸になった螢一は、手にしていた手拭を背中に回して
おもむろに摩擦を始めた。



一方、それを見ていた女神三姉妹は…


「螢一さんっ がんばって!」
ベルダンディーは、両手を胸に組み、祈るように声援をあげた。
「よ〜し!行け行けー!」
ウルドは右腕の拳を振り上げて、声援を送る。
「バカバカしい…見てられないわ」
スクルドは踵を返し、部屋に戻って行こうとしていた。


螢一は考えた。これは長期戦になる、と。
形勢は非常に不利だ。持久戦なら、先輩たちに分がある。
なら、短期戦に持ち込めば? いや、駄目だろう。そもそも、
短期戦に持ち込めるだけの状況がない。
だか、待てよ?俺が先輩達に勝ったら、戦利品が獲得出来る。
もし、負けたら…って、何も言ってないじゃん!
いや、しかし…あの先輩達だ、何か嫌な問題を提出して来るに
違いないだろう…。


「うおおおー!!」
手にしている手拭に力が入る。
負けられない戦いがここにあった。


一方、屈強な先輩達は、その力を容赦なく発揮していた。
いや、発揮し過ぎている、と言った方が正解か。
執拗なまでに背中を摩擦しているその姿は、まさに鬼神の如くで
あった。


「おりゃぁぁぁー!! あああ、熱いー!!!」
その時、田宮先輩に異変が起こった。
背中が真っ赤になり化膿しているように見える。
もんどり打って背中から倒れる田宮先輩を見て、大滝先輩も
「ぐっわー!!! 俺も背中がぁー!!」
と、のた打ち回るようにして倒れてしまった。


ふたりの背中にはひどい炎症が起こっていた。
そりゃあ無理も無い。力任せに背中を摩擦していたんだから。


「せ、先輩っ!だ、大丈夫ですかっ!」
乾布摩擦を止め、先輩達の元へと向かいながら、螢一は
「だ、誰か…手当てを…」と、ベルダンディー達の方を見た。


スクルド!」 ウルドがスクルドを呼び止める。
「もぅ!分かったわよっ!」 スクルドが振り返る。
「頼んだわっ スクルド」 ベルダンディーが声をかけると
スクルドはおもむろに法術を展開した。


スクルドの呼応により、庭の池の水が感応する。
一時、上空に集められた水は、そのまま水竜の如くとなって
先輩達に浴びせかけられた。


ジュウ…と言う、何とも言えない音がした。


暗転。



「森里…よくぞここまで成長したな」
「うむ、見事だったぞ、森里」
田宮先輩、大滝先輩は、ずぶ濡れのまま、螢一を褒め称える。
「え? あ…いや、俺は何も…」
事の次第が何とも飲み込めない螢一だった。


「おまえの勝ちだ コレを受け取れ」
田宮先輩は、そう言うとポケットの中から濡れたカードを出した。
「あ、はい…ありがとうございま…す?」
気にならなかった、と言えば嘘になるが、何だろうと思っていた
そのカードは、猫実商店街の福引券だった。


ああ、やっぱり、こんなオチか…


「俺達は、これにて帰る…ああ、言い忘れていた」
田宮先輩が言う。
「あけましておめでとう、森里君。以上だ!」
そう言って、親指をグッと空に突き上げてニヤリと笑った。


「今年もよろしくな」
大滝先輩もニヤリと笑った。



男の戦いは、これにて終了した、のだが、螢一は不思議でならない
もしかしたら、先輩達、俺に花を持たせてくれたんじゃないか?


「螢一さんっ おめでとうございますっ」
駆け寄ってきたベルダンディー勝利の女神の微笑で迎える。
「割と面白かったよ〜螢一」
ウルドは欠伸をひとつして、部屋に戻った。
「うん!あたし、法術のコントロールが上手になったみたい」
思わぬ幸運を拾った、と言った所だろうか、スクルドも上機嫌だ。



「ところで、螢一さんっ?それって…」
「ああ、先輩達がくれたんだ…福引券なんだけど」
「わぁ、だったら、今から商店街に行きませんか?」
「今から? う〜ん、そうだなぁ」
「行きましょう!きっと良い事があるかもしれませんよっ」
意気揚々とベルダンディーが言うものだから、螢一も
「そ、そうだね…行こうか」
と同意するのだった。


つづく。


by belldan Goddess Life.


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これもデフォ。 次回、福引編!(続け過ぎ!)