現在思案中。

それはまるで、時が止まったかのような場所で、ふたりは
そして、まわりのみんなは楽しげに暮らしていた。
「うん、俺の恋人は、女神さまっなんだよ」だなんて、一体
誰に告げれると思うんだい?
そして、ちょっと諦めにも似た溜息を付いて、森里螢一は
自室の座り机に頬杖を付く。
ふと窓の外を見る。
季節はまだ冬だ。


そのまま仰向けになる。天井の染みが目に入る。
ぼんやりと眺めてた。
我ながら、ずっと傍に居て欲しい、だなんて言えたものだ。
苦笑まじりで反芻するその言葉に、少しは呆れている。
でも、それは真実だった。そして、それは今でもそうだ。


現在(いま)を懸命に生きている。それは間違い無い。
だからこそ未来に繋がって行くと言うものだ。
だけど、だけど、本当にそうなのか?
不安が脳裏を過ぎる。それに付いては、くだらない、とは
心底思えない。


「このまま、俺たちはどうなって行くんだろう・・・」


物語には、始めがあって、そして終わりがある。
言い換えるならば、物事には、と言う事だよな。
傍に居て欲しい、と言う願い事を叶えて貰って、それが
天上界に受理されてから始まった、俺たちの出来事は
それ自体がたくさんの試練を含んでいたのだけれど、でも
だからこそ、ふたりだけのたくさんの思い出も作れた。


そう、実にたくさん。そして、たくさん経験を積んで来た、と
言う訳だ。
その中には、普通の人間では経験すらできない事柄もある。


でも・・・その中には、普通の人間が経験するような出来事は
実に少ないと思う。


以前、店で藤見千尋さんと話していた事を思い返した。


「ねぇ、森里くん・・・ベルちゃんとはどこまで行ったの?」
いきなり本題に入る千尋さんだった。
「ほぇ?どこまで・・・と言われても、どこまで?」
むろん、俺は話をはぐらかしたい一心でトボケた。
「いやぁねぇ・・・!でさ・・・キス位はしてるわよね?」
千尋さんの直球は、いつも鮮烈だった。
「・・・そりゃぁ・・・キスくらいは・・・」
恥ずかしいと言うか、何で言わなきゃならないんだ?
「へぇ〜森里くんも、ヤルわねぇ!」
胸に組んでいた腕、その右手が千尋さんの顎をさすった。
その姿、まるで名探偵のようだ。迷探偵かもしれないが。


「で?それから・・・?」
顎に手を置いて、ニヤニヤと笑いながら砲撃は止まらない。
「えっ?! そ、それから・・・って?」
俺は気まずくなってしまう。そこには触れられたくはないから。
「その後よぉ〜もちろん、しちゃったのよねぇ〜」
うんうん、と頷く千尋さんだった。


「してません!!」とは言えない。それに、反対に
「えへへ〜実はとっくに・・・」なんてのも却下だ。
だから、俺は・・・
「そこはご想像にお任せしますよ、千尋さんっ」
と言って、意味深な笑みを作ったのだった。
それを聞いた千尋さんは、おっコイツ、中々ヤルわねぇ、と
言った面持ちになった所で、タイミングよくベルダンディー
ご帰還と相成るのである。


「ただいま戻りました〜あら?楽しそうですねっ」
寒い外から、暖房の効いた室内に入って来たからだろうか、
ベルダンディーの頬は少し上気していたのを覚えてる。



こんなキレイで可愛い女神さまっと同じ屋根の下で
暮らしている、と言うのに、何も進展しないのには、ちゃんと
理由があるんだ。
眺めている天井の染みをぼんやりと数えながら、考えていた。


考えても、答えはどこにも見つからない、と言うのに。


もちろん普通の恋人たちのように、映画を観たり、買い物に
出掛けたりした事もたくさんある。
ステキな彼女を連れ立って歩いている時の幸福感は、堪らない
ものがあった。
でも、そこから先の事が、まったく見えて来ない。
普通に恋をして、愛し合って、結婚して・・・そして、子供も・・・。


「なんだか、まるで俺が女のような気分だ・・・」
恋愛相談とか、結婚相談とか、そんな類の専門分野の方に
相談・・・いや、これは自問自答か・・・。
「ふっ・・・何考えているんだか・・・」
考えても埒が開かない問題に、アレコレと思い悩んでも
詮無き事だよな。


だけど・・・だけど・・・


「俺はしたいんだよー!!」
つい、心の叫びが出てしまった。


「け、螢一さんっ!どうされたんですか!!」
本当に実にタイミング良く、と言うか、これは悪いのか?
そんな感じで俺の部屋に飛び込んで来たのはベルダンディーだ。
すごく心配そうな顔、それでも実に美しい・・・いやまて、
ここはそんな観賞に浸る場面じゃない。
「あ・・・いや、ごめん・・・なんでもない、よ」
苦笑しながらそう言ったのだが、ベルダンディー
「螢一さんっ、どうぞ仰ってくださいっ!何がしたいのです?」
真摯な眼差しで、俺を見詰めるのだった。


言えませんよ、ベルダンディーさん。と俺は思った。


「何でも仰ってくださいねっ」
ちょっと首をかしげる仕草が、とても可愛いベルダンディー


うわぁ・・・ホント、マジでご勘弁・・・って何を勘弁して欲しいと
俺は思っているんだろうか。
むしろ本音では、大歓迎なんだが、な。


例えばここで「じゃあ服脱いで横になって」とか、あるいは
「すごく・・・したいんですっ」とお願いすれば、全てはOKって
事になるのかな?


「そんな事で解決出来ませんよ」と心の中で声が聞こえた。


うん、分かっている。俺はその声に頷いた。


「あっと・・・じゃあ、お茶、淹れて来てくれる?」
俺はベルダンディーにそう言った。
もちろん、喉は渇いている。
当たり前だ。こんな事態になるとは思ってなかった。


「はいっお茶ですねっ!すぐに!」
ベルダンディーはそう言うと、満面の笑みで俺を見詰めて
それから部屋を出て行こうとした。
襖を開け、部屋から出る間際に
「螢一さんっ・・・大好きですっ」
頬を染める女神さまっの、その可憐な佇まいは、何と言うか
まるで絵画のようなんだけど、実に嬉しいんだけど、でも
何ともしまらない半笑いで、俺は
「・・・うん、俺も・・・」と、まるでつられたように言ってしまう。


本当に・・・「俺たちはどうなって行くんだろう」


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


現在思案中の物語の抜粋です。
そしてこれは書き下ろし(笑)
物語の前後がありますが、掲載するのは何時になるやら。