節分の後で

それは節分が終わった数日後の出来事・・・


「なんでアタシが”鬼”役なのよ〜!!」
ウルドは自室で、自身を鏡に映しながら憤懣遣る瀬無い、と
言った心境だ。
「・・・こんなに綺麗なおね〜さんを・・・」
ちょっとシナを作ったり、ウインクをしたりポーズを作っている。


「決めた!」
決めた、やっぱり螢一には抗議すべきねっ、とウルドは部屋を
出て行くのであった。


一方、螢一は部屋にいたのである。これから不運が訪れるとも
知らないで、マニアックなバイク雑誌のページを捲っていた。
「お〜!なんてセクシーなラインなんだ!」
断って置くが、螢一はバイク雑誌を見ているのだ。
黒に塗装されたタンクからシートにかけて、流れるようなライン
うん、一度座って・・・乗って見たいよな・・・
「この均整の取れたラインはどうだ!すげーなぁ・・・」
もう一度言う。螢一はバイク雑誌を見ている。


その時、おもむろに襖は開けられた。
「ちょっと螢一っ! 話があるんだけど!」
ウルドのご降臨だった。
その褐色の身体をあまり隠す事もなく、いやむしろ強調する
そんな衣服を纏っての登場だった。
断って置くが、これはあくまで彼女の部屋着だ。
別にセクシー路線で螢一に迫るって事ではない。


「な、なんだよ急に・・・」
突然部屋に入ってくる、褐色のダイナマイトボディ、じゃなくて
女神さまっの長女ウルドと、雑誌に掲載されてる黒いバイクを
交互に見てしまった螢一だった。


「急じゃないわよっ!急じゃ!」
「なに怒っているんだよ?」
「怒るわよっ!毎年毎年、何でアタシが鬼役なのよー!」
「それはみんなでジャンケンして決めたから・・・」
「それでも!おかしいとは思わないの?!この華麗な女神である
ウルドさまっが・・・鬼役だなんて・・・変だと思わないの!?」
「それは・・・」
それは、変だとかおかしいだとか、思わなくは無いが、だけど
当時は楽しそうに役に成り切っていたじゃないか、と螢一は
思い返していた。


「こんなに綺麗なのにっ!」
女神さまっだからな、と螢一は思う。
「こんなに可愛いのにっ!」
えっ?それはちょっと違・・・
「螢一っ!責任とりなさいよねっ!」
あれ?いつ俺が責任者になったの?


ウルドが螢一に近づいて来たその時、彼女の足元に以前、商店街の
おもちゃ屋さんでベルダンディーが取って来たガチャポンの
カプセルがコロコロと転がって来て・・・


「あっ!」
ウルドの足元をすくった。
「って!わぁー!」
そのまま螢一の元へとダイブして行く。


「こ、これは・・・」
そう、これはマウントポジションと言うヤツだ。
格闘技なら、一方的にヤラれちゃうポジションがここにあった。
無論、螢一が下で、ウルドが上だ。


「螢一っ!これで逃げられないわねっ!」
チャンス到来!まさにアタシ!幸運の女神だもんね!
「くっ・・・」
ピンチ襲来!まさに袋小路!不運の持ち主に降格か!


いやまて、そう言えばタップと言う技がある。正しく言うと
それは技ではないが、いわゆる『ギブアップ宣言』だ。
螢一は自身の身体に跨っているウルドの足をタップしようとした。


「ああん・・・螢一ったら、どこを触っているの?」
あれ?俺はただ足をタップしようと・・・して?



「螢一さんっ!お茶ですよ〜」
「け〜いち!ハンダゴテ貸して〜」


厄日なのか?それとも俺の人生最後の日なのか?



 女神と黒いバイクと災厄の日々と。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


森里家の日常。よくある出来事シリーズ。