ウルド姉さんって

「う〜ん・・・はぁ・・・」


朝、ベッドから身を起こし、両腕を伸ばすウルドは
爽やかな朝には、およそ似つかわしくない溜息を漏らした。
昨夜の深酒が祟ったのだろうか、いや、それは無い筈だ。
彼女ほどの酒豪、バッカスも降参する程の酒神がだ、たかだか
それっぽっちの酒量で、二日酔いなど有り得ない話なのだ。


それっぽっちの酒量・・・一升ビンが3本ほど部屋に転がっている
のだが、それはそれ。言及はしないで置きたい。


「重いわぁ・・・」
ウルドは視線を自身の身体に向ける。
それはちょうど腹部の上辺りだろうか。
断って置くが、飲み過ぎて腹が出てきた等の問題ではないし、
飲み過ぎで腹が一杯、という訳ではない。


「ホントにもぅ・・・肩がコルのよねぇ・・・」
腹部の上ときたら、それは胸部しかないだろう。
たわわに実った果実、馥郁たる香りを醸し出しているような
褐色の豊かな実りがそこに鎮座している。


分かり易く言うなれば、ウルドは胸がデカイのである。


地上界の重力の干渉を受ければ、それだけで重荷になるのは
自然の理なのだ。
そして普段の彼女は、いわゆる下着等の類は一切付けてない。
支える術は、彼女の法術である。
ピンポイント重力遮断を施している、と言って良いだろう。
割と高等な法術なのだが、割と日常的に使用しているのが、
彼女の彼女らしい所だと言える。


普通の人間、女性の朝支度は洗顔、メイクアップ等があるが
ウルドの場合は、まずは重力遮断のコマンドを起動する。
ベッドの上で短い高速コマンドを唱和すると、ウルドの顔に
自然に優しい笑顔が戻って来る。


「ふぅ・・・楽だわねっ」
重力に左右されない彼女の胸部は、そのまま天を仰いでいる。
「さすがアタシ・・・」
まんざらでもない感嘆を漏らして、朝の支度は終了した。


しかし、もしウルドがこの法術を使用しなかったとしたら、
森里家はかなりの被害を被っていたと言って良いと思う。


第1の被害者は、もちろん森里螢一だ。
ウルドは螢一に肩を揉ませようとするだろう。すると自然に
密着する形になる。それを見たベルダンディーが、第2の被害者
となってしまう。
ベルダンディーの事だから、それはだた螢一の優しさの現われと
思い込もうとする。そうすると、知らず知らずの内にストレスが
溜まって来て限界を超えて、ジェラシーストームを
召還してしまう、と言う結果になる。
そうなると、とばっちりを受けるのがスクルドである。
第3の被害者は、せっかく仙太郎君との逢瀬に準備万端整えて
いたのにも関わらず、被害に巻き込まれて、お寺周辺からは
一歩も出られない事になる。
そうなれば、第4の被害者は川西仙太郎だ。
スクルドとラブラブ路線を邁進したいと常々思考は拡散している
と言うのに、お預けをくらっては堪らない。
若い男子の募る思いは、また別の事件を引き起こさないとは
限らない。


そんな訳で、森里家が日々平和なのも、猫実市が安全なのも
全ては女神ウルドに依頼すると言う訳だ。


「この世はすべて、事もなし・・・か」
全裸のまま、ベッドから起き出したウルドは、法術を駆使して
何時ものような露出の多い衣装を纏った。
鏡に映った煌く銀色の髪が揺れる。その場でくるりと一回転して
決めポーズを作った。


女神ウルドの憂鬱。


by belldan Goddess Life.

*** *** ***

 
真実でっす!(おぃ!


「あ、ありのまま、先日起こった事を話すぜ・・・」
森里螢一は、ゴクリとツバを飲み込んで事の次第を話し出す。
「ウルドが・・・あのウルドのヤツが、重力遮断を怠った時の事
なんだが、あの日は冬だと言うのに、妙に蒸し暑くて、さ」
彼の額から、一筋の汗が流れ出した。
「何だか気だるそうなウルドが、部屋に尋ねて来たんだ」
そう言うと、テーブルの上にあったミネラルウォーターを
一気に飲んだ。
「ああ、そうさ・・・ヤバい気配は感じたんだ。だけど、まぁ・・・
ってちょっと位なら、大丈夫だろうって・・・」
身体から嫌な汗が滲んで来るのだろう、着ていたジャケットを
脱ぎ出した。
「ウルドが『肩が凝るからアンマしてっ』って言い出したんだ。
べ、別に普段からそんな事はやってない!断じて誓うっ!」
いや、そんな事は聞いてませんが。
「仕方がないから、俺はウルドを座らせて、後ろに回って肩を
揉んだんだ。いやぁ、マジで凝ってたよ・・・」


「その内、ウルドのヤツ『背中もお願い』とか言い出したんだ
だから、うつ伏せに寝かせて、俺はウルドの背中に跨った・・・」


「ああ、とても気持ち良さそうにしていたよ。俺も悪い気は
しなかった。誰かの役に立っているって思ってさ」


「後ろめたさ?そんなものは無いよ。だってベルダンディー
姉なんだぜ?妙な気持ちにはならいって!ホントだよっ!」


「で、でもさ・・・やっぱり女神さまっの体って、マジで綺麗なんだ
だから、ほんのちょっとだけ・・・良いなって思ったんだ・・・」


ほんのちょっと良いな、と思っただけで、あわや猫実市は崩壊
寸前だった。
ベルダンディーが思い止まってくれたからだ。
怒ると怖いってのは、本当だったんだな。
そりゃあ魔属にも一目置かれる、と思った。


その後。


「螢一さんっ あの、ごめんなさいっ!」
「いや、いいんだって。悪いのは俺だし・・・その」
「その・・・?」
「あっ!いや、ナンデモないよ!何でも・・・」
「螢一さんっ?あの・・・こんな私ですがキライにならないで!」
「いや!むしろラブラブです!」
そして抱擁、口づけ・・・その他は無しの方向で一件落着。


教訓:女神道は一日にしてならず。生まず弛まず励めよ青年。