ベルちゃんって

「おっ!猫だっ!」


そう言って螢一さんったら、猫さんの傍まで駆け寄って行って
抱き上げて頭とか顎とか、ナデナデしていたんです。
私、本当に単純に「いいなぁ」って思ったりしたんです。


それはいつもの帰り道の事、螢一さんっが「少し休もうか」と
言って、公園のそばにある飲料水の自販機の前に
螢一さんっがバイクを止めた時の事なんですね。
螢一さんっはポケットから小銭を取り出すと、私の好きな
紅茶の缶を購入して、手渡してくれました。
「ありがとう、螢一さんっ」 「うん、ははっ」
照れ笑いすると、まるで少年のような横顔になる螢一さんっ。


「姉さん、螢一さんって、本当に可愛いらしいんですよっ!」
「はいはい、分かったわかった・・・」
「本当にちゃんと聞いてくださいっ 姉さんっ!」
「はいはい、で?」
「あの・・・私も、その時の猫ちゃんのように螢一さんっに・・・」
「・・・ナデナデしてもらいたい、と」
「・・・ええ・・・難しいでしょうか?」


その事をウルド姉さんに話ししていたら、姉さんが
「ちょうど良い物があるからっ!」 と言って暮れたのが
このカチューシャなのね。頭部に猫さんみたいな耳が付いてる。
これを付けて「にゃ〜ん、螢一さぁ〜ん」とか言って甘えれば
上手くいくわ、と。それから・・・
間違い無し!無問題!って言ってました。


「分かったわ、姉さん。私、やってみますっ!」


そして、決行の日が来ました。
その日は螢一さんっだけがお出掛けしていたので、私は留守番を
していて、準備万端整えていました。
あ、そうそう・・・猫耳だけでは雰囲気が出ないので、ちゃんと
尻尾も作りました。似合うかな?
「ただいま〜ベルダンディー?」
螢一さんっのお帰りですっ。
「ただいま〜・・・あれぇ?ベルダンディー、居ないの?」
直ぐにでも出て行きたいのですが、ここは我慢です。
「おっかしいなぁ・・・」
螢一さんっは、框に座ってブーツを脱ぎ出しました。今です!


「にゃ〜ん、にゃぁ〜ん」
「あれ?猫か?ヴェルスパーの友達とか??」
螢一さんっは、振り返らずに声だけを聞いていました。


私はソロソロと猫足モードで螢一さんっに近づいて・・・


「にゃっ!」
「うわわわわぁー!!って、ベルダンディー!!」
「違いますぅ・・・猫さんですよー」
「違いますって・・・ベルダンディーじゃ・・・」
「猫さんだもーん!ナデナデしてほしいにゃ〜」
螢一さんっの背後から、そのまま背中に抱きついたんです。


「わ、分かった・・・分かったから、ちょっと待って・・・」
螢一さんったら、どうしてそんなに慌てるのかしら?
「あ、あの・・・猫さん、だよね?」
「そうにゃ〜ん」
「ナデナデしてほしい、んだよね?」
「にゃぁ〜ん!」
「悪いけど、後ろ向きじゃ〜それはできないんだけど・・・」
「にゃ?にゃにゃにゃ!!」
私も思いました。ちゃんと前を向いてでないと。


脱ぎかけのブーツをちゃんと脱いで、螢一さんっはこちらを
向き、私を見詰めました。
「あの・・・ベルダンディーさん、だよね?」
「違うにゃ〜」
「えっと、誰が状況説明をしてくれると有難いんだ、ケド?」
「螢一さーんっ 早く〜ナデナデしてほしいにゃ〜」
その時、螢一さんっは、ようやく私の頭にあるカチューシャに
気が付いて「ああ、なるほど」と頷いて、苦笑しました。


「分かったよ、猫さん・・・こっちへおいで」
そう言って手招きしてくれる螢一さんっ。
私は一目散に螢一さんっの膝へと向かいました。
螢一さんっの膝に頭を乗せて、早く早くと急かします。
「はいはい、ナデナデ〜ナデナデ〜可愛い猫さんだねぇ〜」
「うにゃ〜ん」


こうして、私のささやかな願いは成就しました。
螢一さんっは、本当に優しい方です。
大好きですっ。


女神さまっの猫耳モードで。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


後日、螢一はウルドに詰め寄る。
「アレってウルドの仕業だろ?」
「何の事かしら?おほほっ」
「頼むから・・・冗談は止めてくれよ」
「言っとくけど、そもそもの原因はアンタにあるんだからね!」
「俺に?」
「そうよ!全ての原因はアンタなのっ!」


心当たり・・・ないのだけど・・・。