三月 弥生 夢見月

三月 弥生 夢見月...


雛祭りも、とうに過ぎたある日。
森里家の縁側で、まったりと過す三人の女神さまっが居ました。
上の長女は、先の雛祭りで頂いた白酒が気に入った様子で、
どういった経緯で入手したのか、濁り酒を堪能して
始終ご機嫌な様相です。
次女は、梅の香りのするお茶を手に、にこにこと笑っています。
三女は、猫実商店街にあるスイーツ店で入手した桜色のアイスに
御執心のご様子。
色々な方角から風が吹く度に、季節を告げる精霊の声を聴いて
相変わらず訪れるであろう春と言う季節に思いを馳せていました。


「また新しい季節が来るのね」
「そうですね、姉さん」
「このアイス、美味しいの!」
楽しみね、とそのスラリと伸びた脚を組みかえる長女は、次女に
同意を求めるように顔を向けた。
ええ、とっても!と次女は微笑を返して、それから少し困惑した
表情を漂わせた。
新作のアイスも楽しみっ!と三女は無邪気に笑った。


「どうしたの?ベルダンディー
「いえ、何でもないです・・・」
「何かあったの!おねーさまっ」
その冴えない表情の原因は、螢一ねっ、と長女は指摘して
「そうよねぇ・・・そろそろ何かあってもおかしくはないわねぇ」
と、しみじみ呟くのだった。
「何があるって言うのよっ!断固阻止するんだからっ!」
三女は息巻いて声を荒げた。


「何もないのよ、スクルド
次女は苦笑する。
「それが問題なのよね」
長女も苦笑した。
「良い事じゃない!」
三女はウンウンと頷いた。


長女は呆れて三女に質問をする。
「アンタ・・・本当にそう思っているの?例えば、アンタと仙太郎の
中で、何も無いって事は、すなわち何でもない間柄って事になる
わねぇ・・・それでもアンタは、それは『良い事』だと言える訳?」
「うっ・・・そ、それは・・・」
三女は何故だか無意識に構えた。
「ちょっと聞くけど、アンタと仙太郎って、どこまで行ったの?」
長女の質問がエスカレートしてくる。
「えっ?あ、あの・・・」
更に装備を備えようとする三女は
「えっと・・・河川の上流まで、かな?」
と、質問をはぐらかそうとするのだった。


そんな定番のボケをかましてどうする!と突っ込みを入れたい所
だが、長女は真摯に質問の意図を説明する。
スクルド?ふたりは知り合い?友達?それとも恋人?」
「あ、えっと・・・あたしと仙太郎君は、知り合い以上の友達で、で
ね・・・友達以上、恋人未満って感じなんだと、思う・・・」
「そしたら、それ以上の仲に進展したいって思わない?」
「・・・うん、思う」
「そのふたりの仲が『何も無い』状態って、どう思う?」
「・・・イヤだ、と思う」
だけど、おねーさまっと螢一の仲は認めたくない!でも、あたしと
仙太郎君の仲は・・・そう考えると、頭の中が混乱してきた三女は
「あたしは・・・螢一とおねーさまっの間を認めたくないけど!でも、
自分の立場で考えたら・・・それはちょっとイヤだと思う・・・でも」
「でも?」
「う・・・ちょ、ちょっとだけなら応援する!」
「よろしい、よく出来ました」


長女の質問攻めから開放された三女は、今度は反撃を試みる。
「そう言うウルドはどうなのよ!進展どころか、相手も居ない!」
「あらあら、そう来たか」
「そうよそうよ!恋人のひとりも居ないじゃない!」
スクルド!姉さんにそう言い方は良くないわっ」
次女が仲介に出た。そして、
「ウルド姉さんには、こんなにラブレターが来ているのよ」と、
法術を展開して、天上界からのメールを取り出した。
その夥しい数は、1000通はあると思われる。
「姉さんは、ちゃんと目を通して、ちゃんとお返事しているの」
その中のひとつを取り出して、送信者に返信した証拠を見せた。


「ええっー!ウルドってモテモテなの?」
半信半疑な眼差しを長女に向ける三女。
「申し訳無いけど、事実なのよねー」
不敵な笑みを三女に向けた長女は、
「いやぁ・・・モテる女神は辛いわねぇ」と迎撃の手を緩めない。


「でも・・・姉さんったら、特定の相手を決めないのね」
次女が天然発言を勃発した。
それを聞いた三女は、増援部隊を得た小隊の隊長のように鼓舞し
「へぇ・・・相手、居ないんだ・・・可哀想」
と小さく呟くのだった。


「なんですって!今、何を言ったのかしら!」
座っていた縁側から立ち上がり、長女は三女を睨んだ。
「別に・・・ただ、事実を言っただけ、だけど?」
敵トーチカに、痛恨の一発をお見舞いしたと確信した三女は
「相手を決められないって・・・何だかねぇ」
更に攻撃の手を休めない。


「やる気?!」
「いいわよっ!」
「姉さんっ!スクルド!」
次女が割って入った。
「・・・」
「ごめんなさい、おねーさまっ」
みんな、落ち着いて、と次女は制した。


「それにしても・・・螢一、遅いわねぇ」
長女が空を見上げて呟いた。
「大丈夫ですよ、もうすぐ帰ってきますから」
次女はニコニコと返事した。
「新作のアイス、ちゃんと買って来てくれるかな?」
三女も楽しみしている。
「ええ、もちろんよ、スクルド
次女は嬉しそうに答えた。


何だかんだで、螢一に頼りぱなっしな女神さまっ達だった。



三月 弥生 夢見月。 (おわり)


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


天上界の恋人は、お休み。