天上界の恋人7.

天上界の恋人7.


「どうして何時も・・・」


慌しく用意をしたかと思うと、一目散にゲートを目指して駆け込んだ
黒髪の麗しい女神ペイオースが去った後、天上界のブースでは、
残された女神達が口々に囁いていた。
「ペイオースったら、地上界に降臨する時は、いつもコレだわね」
「そうよねぇ・・・くくくっ」
後の事は任せましたわよっ、とオペレーター達に言付けた彼女は、
まるで愛する者の元へと向かう乙女のようでもあった。
まぁ、本人は自覚はない。これは天上界に残された女神達の噂で
あるのだが・・・。
ゲートの中をくぐり抜けている途中、最近お気に入りの香水を
チェックしてみた。新種の薔薇のエキスとペイオースの法術で構成
されたフレグランスは、彼女の思いその物だった。
「うふふ・・・とても良い感じですわぁ」と本人も納得の一品だ。
「森里さんも気に入って・・・って、あら?わたくしとした事が」
逸る気持ちには嘘はないが、ちょっと混乱気味ですわ、と彼女は
苦笑した。


他力本願寺の境内上空に、ゲートが構築され、その姿を現した。
淡い光の帯が、一直線に境内に向かって降りて来た。
女神ペイオースの降臨であった。


新しいフレグランスを周囲に振り撒きながら、何時もの様に華麗に
ポーズを決めたペイオースだったが、何時通り誰も出迎えては
いなかった。
「・・・相変わらず、ですわね・・・」
手に持っていた一厘の薔薇も、何気にションボリとしていた。
取りあえず母屋に向かって歩き出す。境内の中は理路整然として
清涼感を伴って清清しい気持ちにさせてくれる。
本当にここは地上界なのかしら?とペイオースは考えてしまう。
それくらい波動が整っているのだ。
足元をジャリジャリと玉石が音を立てる。一定のリズムを刻む。
それが鼓動と重なって、不思議な高揚感を奏でている。
山から吹き降りて来た一陣の風が、ペイオースの黒髪を揺らした。
「やはり・・・ステキな場所ですこと」
そんな感嘆の声を漏らした。


ごきげんよう
母屋の玄関先に到着したペイオースの第一声だった。
「・・・ごきげんよう?」
もう一度、尋ねるようにして声にした。
あら?お留守なのかしら?でも・・・だとしたら、どうして先ほど?
それはベルダンディーからの電話の事だった。


「あ、おかえり ペイオース」 森里さんの声がした。
「おかえりなさい〜ペイオース」 ベルダンディーの声が続く。
おかえりなさい?オカエリナサイ?どうして?
しかし釣られてペイオースも
「ただいま、ですわっ」と返事をしてしまった。


不思議な気分。何と言って良いのか、ほんわりと心地良い気持ちに
包まれて行く感覚は、それ自体が幸福の証のようで。
もちろんペイオースの帰る場所は、天上界にあるのだが。


でも、確かにひとつだけ分かった事があった。
何時来てもお出迎えがないのは、あの方達の愛情表現だったのだわ、
とペイオースの頬が緩むのだった。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


ペイオース降臨の巻でござる。