時と場所

この世に時は必要だからね、と彼は言った。
その概念は、或いは当たりであり、また間違いでもあった。
時の守護神は、螺旋の時の狭間で微笑む。
「螢一さんっ 天上界では時の概念なんて無いのですよ」


何時か帰るであろう旅人には、旅行日程が渡されていて
長い休暇の人もいれば、慌しく帰ってくる日帰り旅行者もいる。
彼らの心にある時計の針は、正確に時を刻んでいるのだが、
それはいつでも客観性を持ってはいない。


時は何時だって主観性の中で刻まれて行く。


「だけど俺は、この限られた時間の制約の中で何をするってのが
面白いと思うんだけど」
螢一は手にしてたレンチをくるりと回して答えた。
「初めがあり、そして終わりがある。その経過を如何にするか、
言うなれば、旅先で出会う初めての経験にも似ているよね」


「私と出会ったのも、その初めての経験になりますか?」
「うん…きっとそうだと、思う」
「びっくりしましたか?」
「うん、それはもう!」
「面白かったですか?」
「…いや、正直驚いてしまったよ。でも、うん…嬉しかった」
「それは、今でも?」
「…うん、今でも、さ」


循環する螺旋の時を守護しながら、彼女は一体どれ位の時の中で
こんな風に、初めての今を経験したんだろう。
気が遠くなる位の過去から、未来へと永遠に続いて行く時間は
客観的ではなく、主観的だと言う。
だとすれば、人の数だけの時間があり、人の数だけの現在があり
過去があり、未来があると言える。


いつぞや天上界から来訪したゲートちゃんの事を思った。
もしかしたら、彼女たちが管理している時も、あんな姿をして
時々はストライキとかしているのかな。


「ねぇベルダンディー、時の姿って見えるの?」
「ええ、見えますよ」
「…その、どんな感じなのかな?」
「ええと…例えば私と螢一さんっの時の姿は…」
頬に指を当てて、ちょっと思案している素振りをしながら
ベルダンディーは答えた。
「螢一さんっに似て、とっても可愛いんですよっ」


俺たちの時って…可愛いって…それって何だか二人の間に出来た
子供のようじゃないか。
そう考えたら、顔が真っ赤になってしまった。


「顔、赤いですよ?」
「い、いや…ナンデモナイデス」
「うふふ…」


知ってて言ったのか、とても意味深な笑みを浮かべる女神さまっ
であった。


旅する時間に。


by belldan Goddess Life.


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ステキなものはステキって言おう。