葉月

夏本番ともなれば、縁側で避暑している黒猫は
自然に必然に影追いをしているのだった。
日が高く昇れば、そのまま影は小さくなって
居場所の確保が難しくなるのは当然の事だった。


それを何となしに見ていた森里螢一は、一案を
思い付いた。
「確か・・・すだれがあったよな?」
母屋の裏、ガレージの横にある納屋にあったと思う。


そう言う訳で、縁側に人工的なオアシスの誕生だ。


すだれ越しの陰影がモノクロのコントラストを奏で
その中に居る黒猫に一服の清涼を与えるのだった。



「どうだい?」
螢一の問いに
「・・・まあまぁ、かな」
ヴェルスパーは安穏と答えた。


夏の日。


時折吹いてくる一陣の風が、火照った身体に心地良い
ごろりと縁側、すだれの中に身を置く螢一は、そのまま
夢の中へと迷い込むのであった。
遠く近くに響いてくる蝉時雨が、寄せては返すさざ波の如く
船を遠方へと漕ぎ出して行くように。
やがて音が消え、うつろな瞼は閉じられて行く。


「あら?」
よく冷えた麦茶をお盆にのせて現れたのは、麗しい女神さまっ。
黒猫を傍らに、心地良い眠りの旅人を見付けて頬を緩ませる。
そっと螢一の傍に座り、彼の旅人を見詰めると自然と笑みが
こぼれて行くのだった。
光の陰影の中で、まるで世界が膠着したような時間が展開して
ふたりだけ、いや正確にはふたりと一匹なのだが。


眠っている螢一の額に汗が流れて行く。
それをそっとタオルで拭うと、自然に螢一の手が彼女の手を
探し、見付け、そして握り締めた。
「あ・・・」
夢の中でも、私の事を探してくれているのですか?螢一さんっ。


その夢はきっと愛の夢なのでしょうか、とベルダンディーは思う。
私も、会いに行っても良いでしょうか?と思う。


気が付けば、彼女もまた眠りの旅人となって、愛しい彼の傍で
夢の中へと旅立って行くのだった。




by belldan Goddess Life.