女神さまっの宴

「あら、螢一さんっ 違いますよっ」
「そ、そうか・・・」
「うふふ」
「あはは」


みんなのティールームで、何時もの下らないTV番組を見るともなく
見ていたウルドは、台所で共同作業、と言うか何と言うか、楽しげに
自分達の世界にどっぷりと浸っている女神と人間の男を横目で見た。
実に幸福そうである。そして実に平和そのものを体現する二人に
思わず「ふぁ〜」と欠伸も出てしまう状況は、ウルドにとって最高に
面白くない事でもあった。
ウルドとて女神さまっなのであるからして、他人の幸福を願い、日々
祈りを捧げている・・・のかも知れないが、この女神さまっは、えてして
退屈を嫌う所があるのだった。
ちょうどその折、玄関先の電話がけたたましく鳴った。


キャッキャウフフな状態を一時中止し、電話に出ようとした
ベルダンディーを制し、ウルド自身が電話に出ようとしたのは、
気紛れでもなく、下の妹であるベルダンディーと螢一のホットな時を
邪魔されたくないだろうな、と言う配慮だったかもしれない。


「はい、ウルドでっす・・・」
鷹揚な返答をした後、ウルドは溜息を付き言葉を続けた。
「なんだ・・・ペイオースかぁ...」
なんだは何ですの!このわたくしが直々にお電話しているのに!と
受話器の向こうから金切り声が漏れてくるのだが、ウルドは受話器を
遠くにして、それをかわしていた。
「あ〜はいはい・・・で、ご用件は?」
何時もの事なので動じないウルドであった。


一方、天上界から通信を送るペイオースなのだが、これと言って
連絡事項も通達もある訳ではなく、何と言うか、ただの暇潰しと
でも言った所なのであろう。しかしウルドとの電話の遣り取りでは
埒も行かず、唯の問答として時間の浪費は否めない事もあった。
「あー!もぅ!あなたとこんな問答をしてても埒があきませんわっ!」


そんな訳で麗しい女神さまっの降臨と相成った訳である。


場所は変わって、ここはウルドのお城、つまり彼女の部屋である。
簡易ゲートを通して光の速さで森里家と来たペイオースは、こっそり
ウルドの部屋へと招き通された。
「相変わらず、ですわね・・・あのお二人」
「ええ、そうねぇ・・・ラブラブ全開って所だわね」
意味深な笑いを浮かべ、それからウルドとペイオースは互いに溜息を
付いた。
「所でウルドさん?あなたにも恋人がいらっしゃった筈?」
「ああ・・・居た、わよ」
「過去形ですのね」
「ええ、終わった恋ってヤツかな?」
「そうですの」
「そうだわよ」
内心お互い一人身って事なのか、と納得して、それからまた溜息を
付くのだった。


こんな麗しく優しい女神が居るって言うのに、どうしてどこにも相手
が居ないのかしら、とまたまたお互いは思う訳だった。
「ウルド、あなた・・・最近、特に綺麗になったのではなくて?」
「そう言うペイオースこそ、やけに綺麗だわね」
お互い、あはは、と乾いた笑いを漏らした。


「ところでペイオースにも好きな男が居る訳なの?」
「え?・・・まぁ、わたくしも過去形ですわね」
「へぇ・・・」
「ええ、そうですの」
何だか部屋の空気が乾燥してきたような気がする。喉が渇いて来た。
ウルドはおもむろに、ペイオースに告げるのだった。


「今夜は飲もうか、ペイオース」
「そう、ですわね・・・」


かくして麗しい女神さまっ達の酒宴が始まるのだった。


女神たちの宴/或いは乾いた心への給水。


by belldan Goddess Life.