女神さまっの宴 6

その威風堂々とした佇まいは、さながら戦場に赴く戦士のようで。


「では、行って(言って)来る」
ウルドとペイオースにそう伝えると、踵を返しみんなのティールーム
へと進行して行くリンドだった。
あまりの衝撃と、あまりのバカさ加減に呆れてその場を動けない
二人は、ただリンドの背中を見送るだけだった。


この状況に、一番相応しい言葉は、多分「御武運を」だと思う。


…いや、違うか。


ウルドの部屋を出て、螢一の部屋の前を通り過ぎ、角を曲がって
もうすぐみんなのティールームだ。
リンドは何かを確信するかのように掌を握り締めた。
大丈夫だ、問題ない
みんなのティールームに足を踏み入れたリンドの目に、つけっ放しの
TVモニターから、何かのバラエティ番組のコントが偶然見えた。
ちょうど上から、タライがお笑いタレントの上頭に落ちて来る場面だ。
TVの粗末なスピーカーから、笑い声が聞こえて来る。


リンドは戦慄した。まさか、そこまでするとは…


だとすれば私のコレは何だ? 「ダメだ…これでは…」声が漏れた。
まるで勝てない…まるで負け戦のようだ。
戦場で後手後手に回ってしまった時の気分だ。
最悪だ。
だが、敵前逃亡しては万死に値する、とリンドは自身を鼓舞する。


「しっかりしろ!リンド!」
リンドは気合を入れる為、両頬を掌で叩いた。ちょっと赤くなった。



みんなのティールームで、そんな騒がしくしていれば、幾らラブラブな
カップルも気が付いてしまう。
「賑やかねぇ…あら、リンドじゃない!お久しぶり〜」
にこやかにベルダンディーが台所から顔を出した。
「あ、うん…久しいなベルダンディー…実は今日、螢一くんの用事が
あって、な」
リンドが最後まで言うまでもなく、ベルダンディーは螢一を呼んだ。
「螢一さぁ〜ん、リンドが用事ですって!」
ベルダンディーは、顔だけ台所へと向ける。
しばしゴソゴソと音がして、それは何か、衣服を纏うような音だった。
「あ…ちょ、ちょっと待ってて…今すぐ…」
何か凄く慌てた声も伴って、ようやく螢一は姿を現した。


「お待たせ…久しぶりだねリンド」
ちょっと照れ笑いをしながら螢一はリンドに挨拶をするのだが、リンド
の様子が変だと感じた。
何故なのだろうか、頬が赤い…それにちょっと涙目になっているような
気もした。
何かあったのだろうか…俺に手伝える事は…そんなにないけど。


「実は螢一くん…その『愛用の斧を池に落としてしまった、オーノー!』
なんだが」
先ほど側聞したTVのコントには敵わないまでも、善戦くらいは、と
リンドは全身全力でもって螢一に言葉を伝えるのだった。


どうだろうか?そんな表情のまま、螢一の反応を待っていた。



「な、なんだって!すぐに見付に行かなきゃ!」
螢一は慌てて玄関先まで走って行くのだった。


「…あ」
取り残されたリンドは呆然として螢一を見送る格好となってしまう。
その後に続いて、ベルダンディーも螢一の後を追った。


先程の暗雲から、小さ雨粒が降り注ぎ、やがて本降りになっていた。



女神たちの宴/雨上がりの空には


by belldan Goddess Life.


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猛暑なので、雨が恋しい。君が恋しい。