女神さまっの宴 8

えっと、その…私は何をどうすれば良いのだ?


そして胸の奥底がチリチリと痛むのは何故だろう、とリンドは思った。
あの二人…こちらに向かって駆けて来る。その表情は雨の中ではっきり
とは見えない。もしかしたら、先程伝えた私のジョークが悪かったのか
それとも…


「リンド!」
「リンド!」
ふたりの声が重なって聞こえてくる。
その声は、とても弾んでいるように聞こえる。
思わず知らず、私も雨の中を彼等の元へと飛び出して行った。
ベルダンディー!螢一くんっ!」


頬に当たる雨粒の、なんと心地良い感触なんだろうとリンドは思う。
以前、そうかなり前に夢の中で見たような、感じたようなそんな感覚。
夢の中で会ったその人は、とても照れ臭そうに笑いながら言った。
「ほら、こっちへおいでよ」
その声に導かれて、その笑顔に導かれて私はその人の前に立った。
何も言わずにその人は、私を優しく抱きしめた。
私はとても幸福感を抱いて、瞳を閉じた。微笑みながら。



気が付くと私はベルダンディーと螢一くんに囲まれていた。
ベルダンディーが最初に私の手を取ると「面白かったですよっ!」と
微笑みながら伝えて来た。それから次は螢一くんの暖かい掌の感触が
私のもうひとつの手を包み込んで来たのだ。
「うん、最高だよっ それにちょっと得したし、ね」
螢一くんは、ちょっと照れ臭そうにしながら笑っていた。



あ、この笑顔だ…そうだ、私はこの笑顔が見たかったのだ。


でも…


「二人とも、すまない…こんな雨の中を…その、私は…」


「何言っているんだよ、三人とも雨の中だし、ねっ!」
「そうですよっ!」
そう言ってベルダンディーと螢一はリンドに微笑みかける。


雨の中、三人は手を繋いで。



それから、女神たちはともかくとして、螢一だけは人間なので、
ざらしのままでは風邪を引いてしまうので、屋敷に戻り風呂に入る。
その後、ベルダンディーとリンドも殊更必要では無いのだが、湯浴みを
する事に相成る。
時折聞こえて来るふたりの笑い声を、特に聞き耳を立てている訳では
ないのだが、螢一の耳に入って来るのだった。



「さて、一見落着と言う事で、ここは宴会よねっ!」
ウルドはどこから調達したのか、大量の酒類を用意していた。
「ですわねっ、わたくしも腕によりをかけて料理を作りましたわ〜」
ペイオースもどこから調達したのか、大量のご馳走を用意していた。
「わ〜ステキですねっ」
ベルダンディーは嬉々としている。
「わ〜って!何で宴会になるんだ?!」
螢一は何が何やら分からない。


「そこはそれ、リンドの駄洒落記念日とか?」
「あら、違いますわよっ、言うなれば祈願達成日ではなくて?」
「そうとも言うわねっ」
ウルドとペイオースは始終ご機嫌の様子だ。
そして少しアルコールも回っているようだった。


螢一はウルドとペイオースから、駆け付け三十杯だとか、色々言われて
普段の30倍位の早さでアルコールを摂取する羽目となる。
ベルダンディーはアルコールに関しては大丈夫だったのだが、お酒の中に
コークハイなるコーラのカクテルが混ざっていたのが原因で、ひどく
酔っ払ってしまった。


早い話が、ベルダンディーと螢一を酔い潰す計画だったと言う事である。


早々に酔い潰れ、二人仲良く眠ってしまった。
「寝てても、こうだからねぇ…」
目を細めてベルダンディーと螢一を見詰めるウルドは、そっとふたりに
ブランケットを掛けてあげた。
「本当ですわねぇ…凶暴な位、仲が宜しい事で…」
ペイオースも微笑み掛けた。


「さて…」
ウルドは縁側に座って、夜空を見上げている盟友リンドの方を見た。
「ですわね」
ペイオースも同意する様に頷くと、縁側へと歩み寄るのだった。


「リンド、気は済みました?」
「ペイオースか…気が済んだ?とは…私は…」
「気にしなさんなって!失恋の一つや二つ…」
ウルドが後から一升瓶を持参して声を掛けた。


「失恋?何の事だ。私は失恋なぞしていない」
「強がりですわねぇ、リンドさんは」
「そうそう!こんな日は飲まなきゃダメってね!」


失恋なぞ、していない。だって私はちゃんと届けれたし、それに…


私の大好きな、あの笑顔を見れたのだから。


女神たちの宴/最高の贈り物は笑顔だよね


END.


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


「で、あたし達の仲間になるわよね」
ウルドが独り身同盟へと誘う。
「ですわねぇ…結果が結果ですもの」
ペイオースも強く薦めてくる。


だがリンドは
「君達とは一緒にしないでくれたまえ」
飛びっきりの笑顔で、そう答えたのだった。  おわり。


宴シリーズ終了です。読んでくださった方々、ありがとうです。