神無月

束の間の秋空に陽気が充満して行くのを感じた午後は
ちょっと懐かしい想い出に浸ってみるのも悪くはない。
瞳を閉じて思い返していると、そこにはいつもあなたが
いるので、きっと私、笑っている。


過去も、現在も、そして未来も…


「うふふ…」


母屋の縁側でベルダンディーは静かに微笑んでいた。
取り込んだ洗濯物を畳み終えて、傍らに清冽に積み上げている
バスタオルをそっと撫でながら。
そこにちょうど通り掛かったスクルドは不思議に思い、姉に声を
かけるのだった。
「お姉さまっ?」
そっと瞳を開けて、声の方を向いたベルダンディーは、スクルド
向かって答えるのだった。
「お帰りなさい、スクルド
「うん、ただいま」
「楽しかった?」
「…うん」
そう言うと下を向いたスクルドは、切なげに呟く。
「ちょっと…喧嘩しちゃったんだ…」
聞くとそれは他愛の無い意見の食い違いだったのだが、当人にとって
は大問題なんだろう。
「それで?」
「・・・」
「ちゃんとごめんなさいしたの?」
「・・・してない」
「あらあら・・・」
落ち込んでいる妹の肩に、そっと手を置いて、そのまま引き寄せた
ベルダンディーは、スクルドを抱きしめる。
「仲直りがしたいのね」
「・・・うん」


「きっと仙太郎君も同じ事を思っていると思うわ」
「そう、かな?」
「ええ、そうよ」
ほら、と本堂の正門を指差したベルダンディー
「彼も、同じ事を考えていたみたいね」
スクルドに伝えるのだった。


正門から母屋の方を見詰める仙太郎は、息を切らしていた。
きっと猛スピードで坂道を自転車で駆け上がって来たんだろう。
両手を膝について、肩で息している。とても辛そうだった。
ベルダンディーは、洗い立てのタオルをひとつスクルドに手渡すと
「はい、行ってらっしゃい」
とスイルドを促した。
しばし躊躇していたスクルドだったが、汗まみれの仙太郎の姿と
手渡された白いタオルを交互に見て、意を決して駆け出した。


スクルドの後姿を見送りながらベルダンディーは思う。
これは彼女にとっても彼にとっても、きっと懐かしい想い出になる。


そして私にとっても…


懐かしい記憶を呼び起こす出来事なのだわ、とベルダンディーは微笑
したのだった。


ノスタルジア


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


ひまわりの花言葉は「あなただけを見つめています」