ある日の出来事 5.

 ちょっと驚いた顔をして、それからまた優しい笑顔に戻って。
マリアベルは一目散に螢一の元へと駆け出して行く。それは、
まるで引力に引かれるようにして。


「おいで」
螢一はそう言うと、両手を広げてマリアベルを優しく抱擁した。


何も聞かないのかな?とマリアベルは躊躇して思った。
もしかしたらパパ、きっとあたしに呆れているのかな、とも思える。
でも、あたしからは何も言えない・・・


螢一はマリアベルの頭を優しく撫でながら、何も言わなかった。


「パパ・・・あのね・・・あたし・・・」
意を決してマリアベルは今までの経緯を話そうとしたのだが、
螢一はマリアベルの口元に人差し指を当てて
「何も言わなくても、良いんだよ」
そう言ってにっこりと微笑み、そして
「ちょっとこれからお付き合いしてほしいんだが、良いかな?」
とマリアベルに尋ねた。


「お付き合い?」
「そう、言うなれば・・・デートってヤツかな?」
「お出掛け?」
「そうだよ」
「わぁ〜」
「さぁ、行こうか」
「うんっ」


パパのサイドカーに乗るのは、本当久し振りだった。
あたしがもっと小さな頃は、ママの膝に抱かれて座っていたけど、
ひとりで座るのって初めてだ。
よいしょっと跨ってシートに滑り込むと、割と狭いんだと感じた。
ここは本当はママの指定席だから、何だか少し悪い様な気もして。
でも、ちょっとだけ大人な感じを覚える。それが嬉しい。
「はい、これ」
パパはヘルメットを取り出して、あたしに渡した。
それは何時もママが被っているヘルメットだ。


ママの匂いがする。


「行くよ、ちゃんと摑まってて」
螢一は、側車の中にある手摺を指差した。
「うん」


バイクは裏門を出て、狭い路地から本線へと進んで行った。


ある日の出来事 5.


by belldan Goddess Life.


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お出掛け〜