ある日の出来事 6.

何時もとは違うルート、山へと向かった螢一とマリアベル
秋の透き通る空気の中で、頂上を目指すのだった。
山を覆う木々は、所々紅葉を帯びて色合いを変えていて、何か馥郁たる
香りを醸し出しているように思えた。
山肌の沿って、或いは小さな平地には鮮明な色を放つ花達の存在があり
それを目にしたマリアベルは、小さく微笑むのだった。


山坂道を駆け上がっていたバイクが、やがて緩やかな平地に着いた。
そこには小さな祠があって、その横にはここが頂上である事を示す
文字が書かれた柱が置いてあった。
一番眺めの良い場所を選んでバイクを動かし、しばしアイドリング状態
で置いた後、エンジンを切る。空冷エンジンのフィンから仄かな熱が
冷え切った山の空気に溶け込んで行く。


「着いたよ、ここが頂上だ」
螢一は側車の中にいるマリアベルに向かって微笑む。
マリアベルはヘルメットを脱ぎ、側車から身を起こして、螢一の方を
見た。
「頂上?一番高い所?」
「そう、この山の一番高い所だよ」
「わぁ!」
マリアベルは側車から飛び出て、地面に足を落とす。そこは神聖な
大地の気と、精妙な空気の混ざり合う不思議な空間だった。
足元が何だかとても柔らかい、そして風がとても綺麗で心地良いなと
マリアベルは思った。


「見てごらん、ここから海が見えるよ」
螢一はそう言って、海の方を指差した。
「ホントだー」
「それに、ほら、たくさんの建物も見えるだろ?」
「うん!小さいねー」
マリアベルはとても興味深そうに、山から見える眺望を楽しんでいた。


「おすきなふくは」
螢一は、そっと呟いた。


「え?なに?パパ?」
まるで何か、とても不思議な呪文を聞いたような、そんな感じを受け
マリアベルは螢一に尋ねる。
螢一はにっこりと笑って、もうひとつ、ある方向を指差した。


ある日の出来事 6.


by belldan Goddess Life.


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大変ご無沙汰しております・・・