ある日の出来事 7.

「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」


小さな花達が可憐に風に揺れていて、その傍にはススキの群生が
ゆらゆらと幻想的に周囲を囲んでいるように見えた。
きょとんとしているマリアベルの頭を撫でながら、螢一は言葉を綴る。
「女郎花、ススキ、キキョウ、撫子、藤袴、葛、そして萩の事だよ」
その頭文字をとって、おすきなふくは、と言ったのだった。


秋の七草の事なんだよ」
「あきのななくさ?」
「そうだよ」


それからマリアベルは、淡い色をした花の名前とか、草花の由来とか
ありったけの質問を螢一に浴びせかける。
なぜなぜアタックを食らった螢一は苦笑しながらも丁寧に答えた。
「面白いね!」
「そうだね、知るって事は、とっても面白い事なんだね」
だから、たくさん色んな事を知ってほしいと螢一は強く願った。


それを知ってか知らずか、そっと手を伸ばして螢一の手を握った。
「えへへ・・・」
ちょっと照れ笑いするマリアベルだった。


林の中に小さな黒い影があった。先程、母屋の庭にいた猫だ。
やがて猫は後ろ向きになり、その姿を消していった。
空には、やはり先程もいた鳥が、向かい風を受けて羽を広げていた。
きっとその後は、上昇気流に乗って空高く舞い上がって行くのだろう。


ふたりは空を見上げた。


「ちょっと寒くなってきたね、そろそろ帰ろう」
「うんっ、あ、ちょっと待ってて」
マリアベルはそう言うと、淡い色の撫子を数本手折って来た。
「ちゃんと”ありがとう”って言って来た!」
「ママへのプレゼントかい?」
「うんっ!」


自然が奏でる音の中、乾いた排気音が木霊すると、二人を乗せた
バイクはゆっくりとその場を後にするのだった。
その後、また周囲は静かな空間へと姿を戻して行った。


ある日の出来事 7.


by belldan Goddess Life.


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もうすぐご帰還・・・