ある日の出来事 8.

バイクは山坂道を降りて行く。幾度かの曲り道、そして所々にある
アップダウンにさしかかると、バイクは地面を跳ねて宙に浮かぶ。
その浮遊感が好きだ。
まるで重力を感じさせない一瞬に、どうしてだか心が躍る。
コーナーを旋回し、緩めていたスロットルを開け放すと、すぐに
次のコーナーが眼前に飛び込んで来る。そのわずかのストレートで
螢一は側車に座っているマリアベルの方をチラリと伺う。


マリアベルはとても楽しそうに笑っていた。


口元が開いていた。きっと何か歌でも歌っているんだろうと思う。
バイクの排気音と風切音、そしてヘルメット越しなので何も聞えて
来ないのだが、その歌は、多分・・・ベルダンディーも歌っていたもの
かもしれない。


いや、それとも、TVで観ているアニメの主題歌なのかも、と
螢一は苦笑した。


山坂道を降りて、なだらかな道に出ると他力本願寺の本堂が見える。
本堂の屋根の上に人影が見えた。
長い栗色の髪と羽織っているストールが風にはためいていた。


「あっ!・・・」
マリアベルはその姿を見付けると感嘆し、それから意気消沈した。
不思議に思う螢一は、マリアベルと、それから屋根の人影を交互に
見やった。
バイクを寺の脇道へと向かい、裏門へ到着した螢一達は、そのまま
バイク置き場へとバイクを進めた。
「着いたよ」
「うん・・・」
ヘルメットを脱ぎながら螢一はマリアベルに告げると、マリアベル
は元気のない返事をするのだった。


ずっと側車に蹲ったまま、車から出ようとしないマリアベルの頭から
ヘルメット脱がしてあげて、螢一はマリアベルをそっと抱き上げた。
「パパ?」
「うん、一緒に行こうか」
「・・・うん」


ふたりは母屋の裏から、庭へと歩いて行った。


ある日の出来事 8.


by belldan Goddess Life.


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