ある日の出来事 9.

境内に落ちている枯葉達がくるりと弧を描きながら舞い上がると、
その中に見目麗しい女神さまっが降臨して来るのだった。
その、重力を感じさせない姿は、どこか、この世界から切り離された
存在だと思い知るに至るまで、そう時間はかからない。


小さな女の子を抱き上げている男の元へと、まるで空中に浮かぶような
静かな足取りで歩み寄る女神さまっは、真摯な表情を柔和な笑顔に変え
二人を出迎えるように両手を広げた。
「螢一さんっ マリアベル、おかえりなさいっ」
その聖母の様な笑みは、もしかしたら、何か悲しみを通り越して来た
者にしか得られないものだったかも知れない。


「うん、ただいま…ちょっとマリアベルと山に行っていたんだよ」
螢一は、そうだよね、とマリアベルの頭を撫でながら伝えた。
それに反応して、こくりと頷くマリアベルは、手にしていた花を思い出して
ベルダンディーと交互にそれを見詰めた。
「あ、そうだったよね…お土産があったんだ」
螢一はマリアベルにそう促すと、抱き上げていた彼女を地に降ろした。


初めはモジモジと躊躇していたマリアベルだったが、意を決して
「ご、ごめんなさい…ママ…」
そう言って淡い色の撫子を差し出した。
「まぁ!」
可愛い花ですねっ!と感嘆するベルダンディーは、差し出された花を取る
のかと思えば、そっとマリアベルを抱きしめるのだった。
「ママの方こそ…ごめんなさいね、ちょっときつく言い過ぎたものね」
「ママっ!」
抱き締められたマリアベルの瞳からは、とても自然に涙があふれてくる。
そして、ベルダンディーの瞳にも…。


事の次第を知らされていない螢一には、何一つ分からなかったのだが、
それでも二人が仲良く和解した事に安堵したのだった。



その日の夜、マリアベルを寝かし付けたベルダンディーは螢一の元へと
やって来た。
螢一は今日の出来事を知りたくて、ベルダンディーを促すのだが、彼女は
一向に答えてはくれない。
それよりむしろ、やけに甘えてくるのが意味深に思えてくるのだった。


布団の上に座っている螢一の元へ、自身の背中を押し付ける
ようにして座ったベルダンディーの吐息は甘かった。
「螢一さんっ…今日、私も一緒に行きたかったです…」
「えっ?山へ、かい?」
「ええ…だって、マリアベルだけ…ズルイです」
まさか実の娘に嫉妬する、だなんて有り得ないとは思うのだけど。
「螢一さんってば…女の子に優しいから…」
「へっ?」
「…男の子だったら、私にかまってくれるかしら?」
「えっ?ええっー!」
「あら、いやだわっ螢一さんっ…勘違いしてる」
「ほえっ?」
「あの…もうひとり…子供が居ればって…男の子が良いかしら、なんて」
もはや返す言葉も無くなった螢一は、マジマジとベルダンディーを見れず
顔を背けてしまったのだが、ぴったりと密着している体は自然に反応する
のだった。
「あら?」
「あ、いや…これは…」
「螢一さんっ!」
向きを変えたベルダンディーは、押し倒すようにして螢一に口付けをした。


やがて螢一達の部屋の明かりが消えて行った。



お幸せに、おふたりさん!



ある日の出来事 9.


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


これにて「ある日の出来事」は終わりです。
本当に日々の、それもよく在るような出来事なので非常に恐縮です。
目を通してくださった方々、ありがとうございました!
まぁ、こんな感じで日々は続いて行くんだよね!