物思いの秋

深まる秋のある日、わたしは久々に先輩を訪ねて見た。
と言っても、いつもの千尋さんのお店ワールウインドなんだけど。


「先輩〜いますか〜?」
カランとドアベルの音をさせて、店に入った。
相変わらずお店の中は理路整然として、まるでバイクショップ
様相を呈していないのであった。
一言で表現するならば、可愛い! である。
思わず「わぁ〜」と感嘆の息がもれるのをベルダンディー先輩は
まさに女神さまっの微笑で出迎えてくれた。
「まぁ!久しぶりですねっ、長谷川さんっ」


いつも先輩を見て思う事がある。


神は…女神さまっは確かに存在するんだと。


それはともかく、清楚で麗しい佇まいのベルダンディー先輩が
居る場所って、どうしてこんなに隅々まで美しく感じるのだろう。
清掃が行き届いているのは無論の事、何だかとっても良い香りが
空気を更に浄化させ、この世ではない清浄な世界観を展開させて
いる。
わたしがほんわりと、その世界観に包まれ桃源郷の境地に達して
いると
「ちょうど良かったわ、今からお茶でもしようと思ってた所なの」
と優しさ3倍アップ(当社比)の笑顔が届けられた。


用意するからちょっと待ってて、と案内されたテーブルに座る。
何となくお店の中を見渡すと、レジ横とか、パーツが陳列された
場所に可愛い置物と、ちょっと不思議な物が一緒に陳列していた。
可愛い物は多分、ベルダンディー先輩の見立てで、不思議な物は
きっと千尋さんかな?とか考えて、少し笑った。
いや、でもお二人とも素敵な女性なのだし、不思議な物はきっと
森里先輩の物に違いないと考えを改めたのだが、そうなると
森里先輩が少し不憫に思えて来た。


だが、彼は決して不憫ではないだろう。
何故ならベルダンディー先輩と言う素敵な恋人が居るのだから。


「お待たせっ」
紅茶の馥郁たる香りと、絶妙な焼き加減のスコーンがトレーの上で
素晴らしいハーモニーを奏でていた。
それはまるでフランスのどこかの豪邸で行われるパーティのようで
室内管弦楽の調べが聴こえて来るようであった。


楽しいお茶の時間、楽しいお喋りのひと時は、まるで時間空間を
ワープしているようである。
きっとわたし達の会話は光の速度を超えて、この大宇宙を何週も
巡って来たのだろうと思うと、何だか胸がキュンとなる。


「ところで森里先輩は…それに千尋先輩も…」
「螢一さんっと千尋さんなら、もうすぐ帰ってくる頃だわ」
そうか、仕事なんだった、と改めて思う。
それにしてもバイクショップで、可愛い物に囲まれてお茶する
だなんて、何ともシュールだと思った。


「でも…良いなぁ〜森里先輩には素敵な恋人がいて」
「あら、螢一さんっは、どちらかと言えば私の愛人…」
「あああ…愛人!」
ちょっと待って!愛人って…この間読んだ本
(注:ハーレクインロマンス等)には、確か愛人って昔のフランス
では、貴族などが夫婦ではなく、違った意味での恋人として
そう、ラマン…そうだわ!ラマンよっ!


何?と言う事は、何ナノ?つまり、ベルダンディー先輩には
正式な恋人が居て、そして…森里先輩は愛人って関係なの?


ここにきて、発覚!森里先輩たちのタダレタ関係説勃発ってわけ?


あり得ない!ソンナコトハアリエマセン!って思いたいけど
どうしてわたしは、そこに興味津々なのでしょうか?


「長谷川さん?どうしたのかしら?」
「えっ?えっ?ドウモしませんよ?ナニモ考えてマセンよ?」


その時、店のドアが激しく開かれた。
「ただいま〜って、あれ、長谷川来てたんだ?」
「おつかれ〜…あら、長谷川さん、お久だねぇ」


さて、どうするわたし…事の真実を今知った直後だ。
選べる選択肢は少ない…


1.「あ、ちょっと用事を思い出しちゃったテヘッ」と言い
 そそくさと店を退散する。


2.「スバリ!森里先輩は愛人なんでしょうか!?」と直球を
 投げてみる。



物思いの秋に。


by belldan Goddess Life.