ああっ女神さまっ+

そもそも、この俺が主人公だなんて思ってなくて、
クラスメイトの小野寺たちは「俺たちがガン○ムだー!」とか
ヒーロー気取りでいる事に辟易している自分がいる。
物語の主役?それって何だよ?ってのが俺の回答であり、
穏便な生活をこよなく愛する平凡な高校生と言う設定が、
とても気に入っているのが真実の姿なのだ。


先日、親戚のおじさん家に行った。
そこで出会った少女は、とても人間離れした美貌の持ち主で
おじさんの最愛の人、つまり奥さんの雰囲気とひどく似ていて
不思議な感覚を覚えてしまった。
おじさんはカッコイイ人で、だからつまり美人にモテルんだな、
そんな思いもあるんだが、それにしてもひどい!と思った。
ひどい!とはひどい言い方なんだけど、世間一般の男性から
それを見ると分かる。いいや、断じて分からんが分かる。


おじさん家での晩餐、と言うか夕食会で初めて出会った彼女は
とても上品な女性で、笑顔がとても美しいと思った。
現役男子高校生たるもの、そんなものに免疫がある筈もなく
ただ緊張していた自分は、多分彼女の目にはひどく幼く映った
のではないかと感じた。


「初めまして、私、森里マリアベルと申しますっ」
彼女のきれいなソプラノが心の奥底まで響き渡る。
それでいて、どこか懐かしい思いを感じるのはどうしてだろう
と不思議にも思う。
「あ…俺、いや、僕は如月ユウと言います…」
何とか自己紹介だけは出来たのは奇跡だった。
もちろん、とても不器用な挨拶だったのは言うまでもないが。


おじさんとおばさんの話によれば、彼女の両親は、遠い外国で
仕事をしているらしい。
以前は猫実町の近くのお寺で暮らしていたんだそうだ。
「ここから割りと近くなんですね」
俺はそう思い、そう述べた。
「そうなんだよ、一度行ってみるのも良いかな?あ、そうそう
その時はマリアベルと一緒に行ってみたらどうかな?」
おじさんは言った。


彼女と一緒に?


「実はマリアベルも幼少の頃、そこで暮らしてた時期があって
、もう覚えてないかもしれないし、ね」
意味深な笑みを持っておじさんは話を続けた。


「わたしからもお願いしますね、如月さんっ」
彼女の優しい瞳が訴える。
「あ…うん」


そんな訳で、近々そのお寺へと行く事になってしまった。



*** *** ***



猫実商店街の外れにあるバス乗り場から、そのお寺に向かう。
お寺の名は他力本願寺と言う、らしい。
らしい、と言うのは実際俺は行った事がないから知らないだけ
で、他意はない。
むろん、この興行は俺一人だ。
男子たるもの、下見は欠かせない。
と言うか、行った事がない場所を案内も何も出来ないのは
実に不愉快なので、そうするだけなんだが。
バスに揺られながら外の景色をぼんやりと眺めていると、初春
の山の風景がふんわりと目に映る。
花粉症の季節だからかな、とか思ってみるも、よく分からない
ので考えを止めた。
バスの案内が「他力本願時下」を告げる。
あわてて降り支度をし、料金を支払いバスを降りた。
人気のない簡素なバス停の脇にある階段を上れば、お寺の正門
あたりに出るらしい。
階段を昇るに連れ、空気感が変わって行くのを感じた。
精妙な気持ちと、どこか逸る気持ちが交錯しているのが分かる。


階段を昇りきって、正門の前に到着した。
門は開けられていた。


そして、その中からは歌が聞こえて来るのだった。



ああっ女神さまっ+(プラス)



*** *** ***


by belldan Goddess LIfe.


第5話「境内に響くもの」