ある日の千尋さん

バイクショップ「ワールウインド」の朝は…
そんなに早くない。
朝、そんな時間帯にオーナーである千尋さんは
欠伸交じりで店を開けるのだった。
「あ〜あ、しかしヒマよねぇ」
従業員は三日程のお休みでいないし、客足も
それにつられてこないし。
「あいつら(お客さん)はベルちゃん目当てだから
こないのは当然として、こうもヒマだとねぇ」
自分でいれたインスタントコーヒーを飲みながら
頬杖をつくのだった。


レジの下には後輩達が気を利かせてくれたのは
良いが、何か軍艦のプラモが山積みだった。
「先輩っ!い、今コレが流行っているんですよ!」
そう言って田宮と大滝が置いていったのだった。
なんで女のあたしが戦艦プラモなんぞ作らないかんのよ。
まぁ良くわからんが、気持ちだけは受け取ろう。


けど、邪魔だ。


時間もあるし、バイクでも磨こうかと裏へまわると
すでにどのバイクもピカピカだった。
整備も万全だった。
「あいつら…やるわねっ」
しかし時間つぶしをしようと思っていたので何か合点が
行かない気持ちをどこへ持っていこうかとした時、
店先にバイクの排気音があり、そして停止した。
あら、お客さん?珍しい…って、珍しいってなによ!


裏からそのまま店先にまわると、白バイがいた。
止めたバイクを降り、ヘルメットを外す白バイ隊員の顔を
見れば…


「えっ?中嶋くん、なの?」
さっそうとサングラスを取りはずしてその男は笑みを
うかべて
「はい、お久しぶりです!先輩!」


中嶋剣くん…田宮や大滝とほぼ同期なのだが、いたって
真面目で、あんまり目立たない後輩だった。
バイクにたいする情熱はもちろん部のみんなと同じくらい
持っていたのは言うまでもない。
ちょっと森里くんにも似ているのかな、と。


ああ、そうでもないか。
森里くんはああ見えて、実にやり手だしね。
特に彼女とか、彼女とか、ね。


「仕事中…って訳ね?」
「実はそうなんです、あのですね最近…」
最近、この辺りに違法バイクが行脚していると連絡が
あったらしい。彼はその助っ人として呼ばれているらしい。
「ふぅん…」
「まさか、とは思うんですけど…」
「あたしの店の客にそんな輩はいないわよっ」
「そうは思うんですけど、これも仕事で…」
すまなさそうに頭を下げる中嶋くんだった。
「そう、だったら裏に止めてあるバイクをみる?」
「すみません…」
ふたりは店の裏にまわった。


「おおっ!これはなんてすごい!」
「でしょ?キレイでしょ?」


違法改造も何もされていない、ちゃんと整備され、
きれいに磨かれたバイクをまじまじと見つめる彼は
確信をもって千尋さんに言った。


「さすが先輩!」
「うむ、もっと誉めたまえ」
まぁ、あたしがやったんじゃないけどね。


その後、店内でお茶でもと誘ったが
彼は任務中だと言うので早々に店を後にした。
もっとも、いつもならベルダンディーの淹れる美味しい
お茶が提供できるが、今はちょっとね。


「早く帰って来てよね」


なぜか遠い空を見るめる千尋さんなのだった。



by belldan Goddess Life.


*** *** ***


マリベル話、分岐点多過ぎて何がなんやら。
そんな事よりも、アレだ。